小論文の基礎ルール

大学受験

小論文の基礎ルール

「小論文なんて書いたことがない」「何から始めればいいのか分からない」──そんな不安を抱えている受験生は少なくありません。しかし、小論文には明確なルールがあり、それさえ守れば、誰でも一定レベルの答案を書くことができます。本記事では、小論文初心者が最初に覚えるべき5つの基本ルールを、具体例とともに分かりやすく解説します。これらのルールを押さえることで、「何を書けばいいか分からない」という不安から解放され、自信を持って小論文に取り組めるようになります。

ルール1. 原稿用紙の基本ルールを完璧にマスターする

小論文で最も基本的でありながら、意外と見落とされがちなのが原稿用紙の正しい使い方です。どんなに内容が優れていても、原稿用紙の使い方を間違えると、それだけで減点対象となります。以下の基本ルールを必ず守りましょう。

【ルール1-1】段落の始まりは必ず一字下げる

新しい段落を始める時は、必ず一マス空けてから書き始めます。これを「一字下げ」と言います。行の最初のマスから段落が始まる場合でも、一字下げは必要です。

✅ 正しい例:
□少子化は深刻な社会問題である。(□は一マス空けることを示す)
□その原因は複合的である。経済的不安、長時間労働、結婚観の変化など、様々な要因が絡み合っている。

❌ 間違った例:
少子化は深刻な社会問題である。(一字下げなし)
その原因は複合的である。

【ルール1-2】句読点の正しい位置

句点(。)や読点(、)は一マスに一つだけ書きます。行末に句読点が来る場合は、最後のマスに前の文字と一緒に収めます。行頭に句読点が来ることは絶対に避けます。

正しい配置例:
・行末の場合: 「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜である。」(最後のマスに「る。」を収める)
・通常の場合: 「〜〜、〜〜。」(句読点は一マスに一つ)

【ルール1-3】数字の書き方

縦書きの原稿用紙では、数字は漢数字(一、二、三、十、百、千)で書くのが原則です。ただし、年号や統計データなどは算用数字(1、2、3)を縦に一マス一字で書くこともあります。横書きの場合は算用数字を使用します。

縦書きの例:
・「二〇二三年」または「2023年」(2、0、2、3、年で5マス使用)
・「三つの理由」「第一に」(漢数字を使用)

【ルール1-4】かぎ括弧(「」)の使い方

引用や強調したい言葉には、かぎ括弧を使います。開始の「は一マスを使い、閉じの」は直前の文字と同じマスに収めることができます。段落の始まりでかぎ括弧を使う場合は、一字下げの後にかぎ括弧を書きます。

正しい例:
□筆者は「環境問題の解決には個人の努力だけでなく、企業の変革が必要である」と述べている。

【ルール1-5】タイトルは不要

大学入試の小論文では、特に指示がない限りタイトルを書く必要はありません。いきなり本文から書き始めましょう。タイトルを書くと、その分の文字数が無駄になります。

重要ポイント: 原稿用紙の使い方は、小論文の「マナー」です。これができていないと、内容を読む前から「この受験生は基本ができていない」という印象を与えてしまいます。最初の練習から正しい使い方を身につけ、無意識にできるレベルまで習熟しましょう。

ルール2. 絶対に使ってはいけない表現を知る

小論文には、使ってはいけない「禁止表現」があります。これらを使うと、たとえ内容が良くても「小論文の書き方を理解していない」と判断され、大幅な減点となります。

【禁止表現①】「私は〜と思います」

小論文では「だ・である調(常体)」を使い、「です・ます調(敬体)」は使いません。また、「思います」という弱い表現ではなく、「考える」「判断する」という断定的な表現を使います。

❌ 使ってはいけない例:
私は少子化対策が必要だと思います。

✅ 正しい表現:
私は少子化対策が必要であると考える。
少子化対策は不可欠である。(より断定的)

【禁止表現②】話し言葉・口語表現

「やっぱり」「すごく」「ちょっと」「〜だけど」「〜みたいな」などの話し言葉は絶対に使ってはいけません。書き言葉に置き換える必要があります。

❌ 使ってはいけない例:
やっぱり環境問題はすごく深刻だと思う。だけど、ちょっと難しい問題みたいだ。

✅ 正しい表現:
環境問題は極めて深刻である。しかし、解決には複雑な課題が存在する。

【禁止表現③】感情的・主観的すぎる表現

「すばらしい」「感動した」「悲しい」「許せない」などの感情的な表現は避け、客観的で論理的な表現を使います。

❌ 使ってはいけない例:
看護師の仕事はすばらしいと感動した。患者を放置する病院は許せない。

✅ 正しい表現:
看護師は医療において重要な役割を担っている。患者ケアの質の向上は、医療機関の責務である。

【禁止表現④】極端な断定表現

「絶対に」「必ず」「100%」「完全に」などの極端な断定は避けます。論理的には例外の可能性を残した表現の方が適切です。

❌ 使ってはいけない例:
AI技術は絶対に人間の仕事を奪う。これは100%確実である。

✅ 正しい表現:
AI技術により、定型的な業務の多くは自動化される可能性が高い。ただし、創造性や共感力を要する仕事は人間が担い続けるだろう。

【禁止表現⑤】体験談から始める書き出し

「私は以前〜という経験をした」「小学生の時〜」などの個人的な体験談から始めることは避けます。小論文は客観的事実やデータから始めるべきです。

❌ 使ってはいけない例:
私は高校時代にボランティア活動で高齢者施設を訪問した経験がある。

✅ 正しい書き出し:
日本の高齢化率は29.1%(2023年)に達し、高齢者ケアの充実は社会的課題となっている。

注意: 体験談を全く使ってはいけないわけではありません。本論の具体例として、客観的な論拠を補強する形で使うのは効果的です。ただし、書き出しや主要な論拠として使うことは避けましょう。

小論文対策を早めに始めるべき理由

ルール3. 時間配分の鉄則を守る

小論文試験で最も重要なスキルの一つが、時間配分です。どんなに優れた内容を考えても、時間内に書き終わらなければ0点です。また、焦って書くと誤字脱字や論理の破綻が生じます。以下の時間配分の鉄則を必ず守りましょう。

【鉄則1】構想に必ず時間をかける

試験時間の配分は、「構想:執筆:見直し = 1:7:1」が基本です。60分の試験なら、構想10分、執筆45分、見直し5分。90分の試験なら、構想15分、執筆70分、見直し5分です。

構想段階でやるべきこと:

  • 設問を2回読み、何を問われているか正確に把握する
  • 自分の主張(立場)を決める
  • 主張を支える論拠を2〜3個考える
  • 序論・本論・結論の内容を箇条書きでメモする

「いきなり書き始めたい」という衝動を抑え、必ず構想時間を確保してください。構想なしに書き始めると、途中で論理が破綻したり、文字数が足りなくなったりします。

【鉄則2】各部分の文字数配分を意識する

小論文全体を「序論:本論:結論 = 1:7:1」または「1.5:7:1.5」の割合で配分します。800字の答案なら、序論100〜120字、本論560〜600字、結論100〜120字が目安です。

文字数配分の具体例(800字の場合):

  • 序論(100〜120字): 問題提起と自分の主張を明示
  • 本論(560〜600字): 論拠①(200字) + 論拠②(200字) + 論拠③(160〜200字)
  • 結論(100〜120字): 主張の再確認と提言

書きながら現在の文字数を意識し、「そろそろ本論の半分だから400字くらいかな」と確認する習慣をつけましょう。原稿用紙なら行数で計算できます(1行20字なら20行で400字)。

【鉄則3】時間が足りなくなった時の対処法

もし時間が足りなくなってきたら、以下の優先順位で対応します。

  1. 最優先: 結論まで必ず書き切る(尻切れトンボは大幅減点)
  2. 次点: 本論の論拠を2つに減らす(3つから2つへ)
  3. 最終手段: 各論拠の具体例を簡略化する

逆に時間が余った場合は、以下を確認します。

  • 文字数が指定の9割以上あるか(720字以上/800字指定の場合)
  • 論拠をもう一つ追加できないか
  • 具体例をより詳しく書けないか

【鉄則4】見直し時間は絶対に確保する

最後の5分間は、必ず見直しに使います。以下の順序でチェックしましょう。

  1. 誤字脱字: 特に固有名詞や専門用語
  2. 文体の統一: 「だ・である調」で一貫しているか
  3. 主語と述語のねじれ: 長い文は特に注意
  4. 段落の一字下げ: すべての段落で守られているか
  5. 結論の一貫性: 序論の主張と矛盾していないか

時間管理のコツ: 練習段階から必ず時計を見ながら書く習慣をつけましょう。「10分経過→構想終了」「30分経過→本論の半分完成」「50分経過→結論に入る」「55分経過→見直し開始」という感覚を体に染み込ませることが重要です。

ルール4. 最低限守るべき文字数のルール

小論文では、指定された文字数をどれだけ守るかも評価の対象となります。文字数のルールを知らずに、大幅に不足したり超過したりすると、それだけで減点されます。

【ルール4-1】指定文字数の9割以上は必須

小論文の文字数は、指定文字数の9割以上〜上限までが原則です。800字指定なら720〜800字、1200字指定なら1080〜1200字です。9割未満は「内容不足」とみなされ、大幅な減点対象となります。

文字数別の合格ライン:

  • 600字指定 → 540字以上(9割)〜600字
  • 800字指定 → 720字以上(9割)〜800字
  • 1000字指定 → 900字以上(9割)〜1000字
  • 1200字指定 → 1080字以上(9割)〜1200字

注意: 「800字以内」という指定の場合、800字ちょうどまで書くのが理想です。「〜以内」は上限を示すだけで、下限の指定はありませんが、実質的には9割ルールが適用されます。

【ルール4-2】文字数が足りない時の対処法

文字数が不足する主な原因は、「具体例が少ない」「論拠の説明が浅い」の2つです。以下の方法で文字数を増やせます。

方法①: 各論拠に具体例を追加する
「教育格差が問題である」→「文部科学省の調査によれば、世帯年収400万円未満と1200万円以上の世帯では、子どもの学力テスト正答率に約20ポイントの差が生じている」(データで補強)

方法②: 反対意見への配慮を加える
「確かに、〜という意見もある。しかし、〜という理由から、私は〜と考える」(50〜80字増)

方法③: 論拠を一つ追加する
2つの論拠で論じていた場合、3つ目の論拠を加える(150〜200字増)

【ルール4-3】文字数が超過する時の対処法

文字数オーバーも減点対象です。以下の方法で削減しましょう。

削減方法①: 冗長な表現を削る
❌「〜ということが言えるのではないだろうか」(18字)
✅「〜と言える」(5字) ※13字削減

削減方法②: 重複表現を統合する
❌「経済的不安がある。お金の問題が大きい」
✅「経済的不安が大きい」

削減方法③: 論拠の一つを簡略化する
3つの論拠のうち、最も弱いものを短くまとめる、または削除する

【ルール4-4】文字数カウントの正確な方法

文字数をカウントする際の注意点:

  • 句読点(、。)も1字としてカウントする
  • かぎ括弧(「」)も1字ずつカウントする
  • 改行は文字数に含まない
  • 空白マス(段落の一字下げ)は文字数に含まない

例: 「環境問題は深刻である。」
→ 「環境問題は深刻である。」= 12字(句点を含む)

重要ポイント: 文字数管理は、練習段階から意識することが重要です。「だいたいこのくらい書けば800字」という感覚を身につけましょう。原稿用紙なら行数で計算できますが(1行20字×40行=800字)、横書き用紙の場合は段落ごとに概算する習慣をつけます。

ルール5. 本番で必ず実践する3つのチェック

小論文試験の本番では、緊張や焦りから思わぬミスをしがちです。以下の3つのチェックを必ず実践することで、ケアレスミスによる減点を防げます。

【チェック①】設問を2回読む(試験開始直後)

試験が始まったら、すぐに書き始めるのではなく、まず設問を2回読みましょう。1回目はざっと全体を把握し、2回目は「何を問われているか」を正確に理解します。

確認すべきポイント:

  • 「〜について述べよ」→ 指定されたテーマに答える
  • 「賛成か反対か、理由とともに述べよ」→ 立場を明確にする
  • 「あなたの考えを述べよ」→ 自分の意見が必要
  • 「筆者の主張を要約し、意見を述べよ」→ 要約と意見の両方が必要

設問の読み違いは、どんなに優れた文章を書いても0点になる可能性があります。特に、「原因を述べよ」なのに「対策を述べる」、「賛否を明確にせよ」なのに「どちらとも言える」と曖昧に書くなどのミスが多く見られます。

【チェック②】書きながら主語を確認する(執筆中)

小論文で最も多いミスの一つが「主語と述語のねじれ」です。特に一文が長くなると、主語を見失いがちです。書きながら、定期的に「この文の主語は何か」を確認しましょう。

ねじれチェックの方法:
長い文を書いた後、主語と述語だけを抜き出して読み、つながりを確認します。

例文:「少子化の原因は、経済的不安や長時間労働による仕事と育児の両立困難、結婚観の変化、地域コミュニティの衰退など、複合的な要因が絡み合っている。」

主語と述語を抜き出す:「原因は〜が絡み合っている」→ ねじれている!

修正:
✅「少子化の原因は複合的である。経済的不安、長時間労働による仕事と育児の両立困難、結婚観の変化、地域コミュニティの衰退など、様々な要因が絡み合っている。」

【チェック③】最後の5分で全体を見直す(試験終了前)

試験終了5分前になったら、必ず見直しを開始します。以下の順序で確認しましょう。

見直しチェックリスト(優先順位順):

  1. 結論が完成しているか(最重要): 尻切れトンボになっていないか
  2. 文字数が9割以上あるか: 不足している場合は追記、超過している場合は削除
  3. 文体が統一されているか: 「です・ます」と「だ・である」が混在していないか
  4. 段落の一字下げができているか: すべての段落を確認
  5. 誤字脱字がないか: 特に固有名詞、専門用語

見直しのコツ: 全文を丁寧に読み直す時間はないので、上記の5項目に絞って効率的にチェックします。特に、序論の主張と結論の主張が一致しているかは必ず確認しましょう。

【番外編】当日の心構え

試験当日は、以下の心構えで臨みましょう。

  • 完璧を目指さない: 8割の完成度で時間内に書き上げることを優先
  • 焦らない: 周りが先に書き始めても、自分は構想時間を確保する
  • 諦めない: 難しいテーマが出ても、基本の型で書けば最低限の評価は得られる
  • 最後まで書く: 時間がなくても、必ず結論まで書き切る

本番で役立つおまじない:
試験開始前に、心の中で唱えましょう。
「構想10分、執筆45分、見直し5分」
「序論で主張、本論で根拠、結論で再確認」
「文字数は9割以上、一字下げを忘れずに」

まとめ:初心者が押さえるべき5つのルール

小論文がはじめての受験生が、まず覚えるべき5つのルールを振り返りましょう。

  • ルール1: 原稿用紙の基本(一字下げ、句読点、数字、かぎ括弧)を完璧にマスターする
  • ルール2: 禁止表現(「思います」、話し言葉、感情的表現、極端な断定、体験談から始める)を絶対に使わない
  • ルール3: 時間配分(構想:執筆:見直し=1:7:1)を必ず守る
  • ルール4: 文字数は指定の9割以上〜上限までを厳守する
  • ルール5: 設問の2回読み、主語の確認、最後の見直しを実践する

これらのルールは、小論文の「最低限のマナー」です。どんなに優れた内容を書いても、これらのルールを守らなければ、高評価は得られません。逆に言えば、これらのルールさえ守れば、誰でも一定レベルの答案が書けるということです。

小論文は、才能や文章力の勝負ではありません。ルールを理解し、それを忠実に守る「誠実さ」の勝負です。本記事で紹介したルールを一つずつ確実に身につけ、練習を重ねることで、「はじめての小論文」という不安は必ず自信に変わります。

最初は窮屈に感じるかもしれませんが、ルールを守って書くことを繰り返すうちに、自然と体が覚えていきます。そして、基本のルールが身についた後は、内容の充実や論理の深化に集中できるようになります。焦らず、一歩ずつ確実に進んでいきましょう。

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