成績比較が止まらない心の構造
模試の成績表を開いた瞬間、隣の友達の点数が頭をよぎる。SNSでは「A判定だった!」という投稿が目に入る。どんなに努力しても、他人の結果を見ると心がざわつく——そんな経験は、多くの受験生に共通しています。
人が他人と自分を比べてしまうのは、弱さではなく本能です。心理学者レオン・フェスティンガーが提唱した「社会的比較理論」によれば、人は自分の能力や価値を判断するために他人と比べる性質を持っています。つまり、比較すること自体は自然な行為なのです。
ただし問題は「比較の使い方」です。
他人と比べて自分の成長を確認できれば健全ですが、「焦り」「嫉妬」「自己否定」に変わると、集中力を奪います。比較のベクトルを誤ると、努力が“他人のための努力”になってしまうのです。
受験は競争の場であり、数字で比較される世界です。だからこそ「比べるな」と言われても止められません。つまり、比較をゼロにすることがゴールではなく、比較の仕方を選べるようになることが本当の課題なのです。

記事の監修者:五十嵐弓益(いがらし ゆみます)
【全国通信教育】最短合格オンラインのスカイ予備校 校長
■小論文指導歴27年
これまでに指導した生徒は4000人以上、独自のSKYメソッドを考案で8割取る答案の作り方を指導。
2020年4月から、完全オンラインの大学受験予備校となる。過去3年間で国公立大学合格125名。
高1から入会者は国公立大学合格率93%
高2から入会者は国公立大学合格率86%
高3の4月から入会者は国公立大学合格率73%。
スカイ予備校の指導方針は、「大人になっても役に立つ勉強法の習得」です。「自分の人生は自分で切り拓く」教育をします
SNSと模試が不安を増幅させる
SNS時代の受験は、かつてないほど「他人の進捗」が見えやすくなりました。X(旧Twitter)やInstagramで同じ志望校の受験生が「過去問9年分終わった!」「A判定取れた!」と投稿しているのを見て、胸がざわつくことがあります。
しかしSNSは、“見せたい部分”だけが切り取られた世界です。本人の不安や努力の裏側は映っていません。
そのまま比較すると、他人の“完成形”と自分の“途中経過”を比べることになり、自己肯定感が削られていきます。心理学ではこれを「ハイライト比較効果」と呼びます。
また、模試という“公式な比較”の場もプレッシャーになります。判定が下がったとき、周囲が上がっていると「自分だけ置いていかれている」と感じる。
ただ、模試の点数は「現時点の到達度」であり、同時に「伸びしろの余白」でもあります。模試のたびに勉強法を変えるより、一貫した学習軸を守る方が伸びやすいことも知られています。比較に心を奪われるほど、本来の成長軸を見失いやすくなるのです。
比較がもたらす“停滞の連鎖”
他人の成績を意識するほど、皮肉なことに自分の勉強が進まなくなります。これは脳が「評価ストレス」に支配されるためです。ハーバード大学の研究では、他人との比較によって自己評価が下がると前頭葉の活動が低下し、集中力や論理的思考力が鈍ることが確認されています。つまり、「焦るほど頭が働かなくなる」という逆転現象が起きるのです。
さらに、比較によって「行動の目的」がすり替わります。
本来は“自分の成長”のために勉強していたのに、いつの間にか“他人に追いつくため”の勉強になる。すると学習の動機が外部依存型になり、努力が長続きしにくくなります(外的動機づけ支配)。
一方で、「比較をやめよう」と強く意識しすぎるのも危険です。抑えようとするほど意識が強まる「リバウンド効果」が起きるからです。
だからこそ、比較を“消す”のではなく、比べ方を“変える”ことが現実的な解決策になります。
比較のエネルギーをどう変換するか
他人の成績を気にしてしまう感情は、完全に消す必要はありません。
その感情を「自分を追い込む刃」にするのではなく、「行動を起こす燃料」に変換できれば、比較は成長の味方になります。
たとえば、「あの人がやっているなら自分も頑張ろう」と捉えれば、比較は“競争”ではなく“刺激”になります。教育心理学の研究でも、適度な社会的比較は成果を促進するとされています。重要なのは、「自分を否定する比較」ではなく、「自分を鼓舞する比較」を選ぶことです。
そして忘れてはいけないのが、「過去の自分」との比較です。
昨日より5分長く集中できた。先月より解ける問題数が増えた。
成長とは他人を超えることではなく、“過去の自分”を更新していくこと。比較を自分の軸に戻すことで、心は安定し、努力は継続しやすくなります。
比較を“力”に変える実践法
他人の成績が気になるときは、比較の矢印を「外向き」から「内向き」に変えることが第一歩です。
友人が高得点を取ったとき、「自分は負けた」と受け取るのではなく、「その人は何をしたのか」に注目してみましょう。感情ではなく方法に焦点を当てる。これは「モデル学習」と呼ばれる、行動改善につながる学び方です。
また、比較を「目標設定の基準」として使うのも有効です。
「自分は1週間遅れているなら、今週は2日多く時間を取ろう」
このように差分を行動に変換できれば、それはもう“他人との競争”ではなく、“自分の成長の設計”になります。
そして劣等感を抱いたとき、無理に消そうとしなくていい。
アドラーは「人は劣等感を克服する過程で成長する」と述べました。劣等感を“痛み”ではなく、“方向を示すサイン”として受け取れたとき、比較は自分を傷つけるものではなく、自分を導くものに変わります。
自分軸を守る習慣
比較に揺れないためには、「自分の軸」を明確にすることが欠かせません。
軸とは、「何のために勉強しているのか」「どんな未来を描きたいのか」という目的意識です。軸が弱いほど、他人の結果に引きずられやすくなります。
おすすめは「一日一行ジャーナル」。
寝る前に「今日の自分の良かった行動」を1行だけ書く。
「今日は復習をやった」「休まず机に座った」——小さな自己承認の積み重ねが、自己効力感を育て、比較への耐性を高めます。
どうしても比較が止まらない日は、情報遮断の時間を作りましょう。SNSや模試の話題から一時的に距離を置くだけで、心のノイズは減ります。特に就寝前のスマホは比較を誘発し、睡眠の質も下げやすい。思考を静かに整える時間が、自分軸の再起動になります。
心を整える言葉
比較で苦しくなったときに、自分に投げかける言葉(セルフトーク)を決めておくのは効果的です。
- 焦っても点数は上がらない
- 昨日の自分を超えたらそれでいい
- 自分のペースで進めば十分
自己肯定的な言葉は、脳のストレス反応を鎮め、冷静さを取り戻す力があります。言葉は感情を整える「内なる指揮官」なのです。
また、「誰かと違う自分」を恐れないことも大切です。
受験は同じ試験を受ける競争ですが、同じ過程を歩む競争ではありません。得意科目も学習速度も生活リズムも違って当然。自分のペースを許せたとき、比較は自然と薄れていきます。
比較のない努力は存在しない
他人の存在が気になるのは、それだけ本気で戦っている証拠です。比較を完全に消すことはできません。人は社会的な生き物であり、誰かと関わりながら成長します。
大切なのは、比較のエネルギーを「嫉妬」ではなく「刺激」に変えること。
「あの人が頑張っているなら、自分ももう少しだけ頑張ろう」
この瞬間こそ、最も健全な比較です。
受験が終わったあと、あなたは気づくはずです。
“あの人に負けたくなかった”という気持ちが、あなたを支えていたことに。
比較の痛みは努力の証であり、成長の軌跡そのものです。比べて、焦れて、それでも立ち上がった回数の分だけ、人は強くなります。
まとめ
周囲の成績が気になるのは、努力を本気で続けている証拠です。比較を悪者にせず、方法として使う。感情ではなく行動で比べる。そして他人よりも“昨日の自分”に目を向ける。
比べるたびに苦しくなったら、思い出してください——この焦りは、夢に向かっている証拠です。焦りと競いながら歩くその時間こそが、受験生としての成長そのものなのです。



