参考書を何冊も買い続けても成績が上がらない生徒に共通する「本当の問題」

参考書を何冊も買い続けても成績が上がらない生徒に共通する「本当の問題」 五十嵐校長コラム

「先生、この参考書じゃダメだったみたいで、新しいの買ってもいいですか?」

ある秋の夜、面談室でそう言ったのは、高3のAくんだった。机の上には付箋だらけの参考書が3冊。どれもパラパラとめくった痕跡はあるが、どれも「最後まで終わっていない」。私はその光景を見た瞬間、正直に言うと、胸が痛くなった。

なぜなら、私はその光景を27年間で何百回と見てきたからだ。

参考書ジプシーは、今日も書店へ向かう

受験業界には「参考書ジプシー」という言葉がある。1冊やりきる前に次の参考書へ移り、また移り、また移る。気づけば本棚に未完の参考書が並んでいる。Aくんもまさにそのパターンだった。

彼の部屋には英語の参考書だけで6冊あったという。単語帳2冊、文法書2冊、長文読解が2冊。どれも「途中まで」だ。保護者の方から最初に相談を受けたとき、お母さんはこう言っていた。「うちの子、本当に勉強が好きで、参考書を買うたびにやる気になるんです。でも成績が全然上がらなくて……」

私はその言葉を聞いて、「ああ、これは勉強が好きなのではない」と思った。正確に言えば、勉強の「準備」が好きなのだ。新しい参考書を開く瞬間のあのドーパミン。「これで変われる」という根拠のない高揚感。それ自体を楽しんでいる。

これは決して珍しいことではない。27年間で見てきた現場だからこそ断言できますが、成績が伸び悩む生徒の約7割に、この「参考書の買いすぎ・やりきれない」問題が絡んでいる。

「合う参考書を探している」は、逃げの言い訳になっている

Aくんに話を聞くと、こう言った。「なんか、やってみたけど自分に合わない気がして」

私は少し厳しい言い方をした。「Aくん、正直に聞くけど、その参考書、何ページまでやった?」

沈黙があった。

「……40ページくらいです」

英文法の参考書は全部で300ページ以上ある。40ページで「合わない」と判断したのだ。

私はこう考える。参考書というのは、最初の数十ページで「合う・合わない」は判断できない。人間関係と同じで、ある程度付き合ってみて初めてわかることがある。そして多くの場合、「合わない」と感じるのは参考書の問題ではなく、「難しくなってきたから逃げたい」という心理が正体だ。

これは責めているのではない。人間の脳は本能的に「難しいこと」「不快なこと」から逃げようとする。その逃げ道として、「新しい参考書を買う」という行動が機能してしまっている。新しい参考書を買う行為は、「勉強した気分」を得られる最もコストの低い行動なのだ。

1冊をやりきった生徒が、なぜ伸びるのか

別の生徒の話をしよう。Bさんは高2の夏に入塾してきた女の子で、最初の面談で「英語が全然できなくて、何をやればいいかわからない」と言っていた。偏差値は当時48。志望校は関関同立だった。

私はBさんに1冊の英文法の参考書を渡して、こう言った。「これだけやってください。他は買わなくていい。この1冊を3周してから次の話をしましょう」

Bさんは正直、不満そうな顔をした。「これだけでいいんですか?」という顔だ。でも彼女は律儀にその1冊をやり続けた。最初の1周目は2ヶ月かかった。2周目は1ヶ月。3周目は2週間で終わった。

そのとき彼女は言った。「先生、なんか急に英語が見えてきた気がします」

私はこのときの感覚を今でも覚えている。これだ、と思った。1冊を繰り返すことで知識が「点」から「面」になる瞬間がある。最終的にBさんは関西学院大学に合格した。

参考書を1冊やりきることで何が起きるか。それは単に「内容を覚える」だけではない。「自分はやりきれる」という自己効力感が育つのだ。これが次の1冊、また次の1冊へとつながる。勉強の根幹にあるのは、知識よりもこの「自分を信じる力」だと私は確信している。

参考書が増える本当の理由は「勉強法の問題」ではない

ここで一つ、本質的なことを言わせてほしい。

参考書を買いすぎる生徒は、勉強法がわからないのではない。「できない自分」と向き合うのが怖いだけだ

新しい参考書を買う瞬間、人は「まだ自分はやっていないから、できないのは当然」という安全地帯に逃げ込める。でも1冊をやりきって、それでもできなかったとき、初めて「自分の実力の問題」と向き合わなければならない。その怖さから逃げるために、参考書を買い続けるのだ。

これは意志の弱さではない。人間として自然な心理反応だ。ただ、受験という期限のある戦いでは、その逃げが致命傷になる。

今すぐ本棚を見てほしい

あなたの本棚に、途中で止まっている参考書はいくつあるか。正直に数えてみてほしい。

もし2冊以上あるなら、今すぐ新しい参考書を買うのをやめることだ。そして手元にある1冊の中で、一番「やりかけ度が低い」ものを選んで、それを最後まで終わらせることに集中してほしい。

「でも自分に合った参考書を見つけたい」という気持ちはわかる。ただ、合う参考書を探す時間は、今のあなたには存在しない。受験は待ってくれないからだ。

私がAくんに最終的に言ったのはこうだ。「新しい参考書は買わなくていい。今持っているその3冊の中から1冊選んで、それだけを持って帰りなさい。残りの2冊は私が預かる」

Aくんは最初、目を丸くしていた。でも3ヶ月後、彼は模試の結果を持って面談室に来た。偏差値が11上がっていた。

参考書の問題ではなかったのだ。最初から。

スカイ予備校では、「何をやるか」より「どうやりきるか」を一緒に考えます

スカイ予備校では、入塾時に必ず「今持っている参考書の棚卸し」を行う。何を持っていて、どこまで終わっているか。それを整理したうえで、本当に必要なものだけを選んで、やりきるための計画を立てる。

参考書を増やすことが仕事の予備校ではなく、あなたの手元にある1冊を最後まで使い倒すサポートをする場所でありたい、と私は27年間ずっと思っている。

もし今、参考書が増えていく一方で成績が伸び悩んでいるなら、一度話を聞かせてほしい。あなたの状況を整理するだけで、次の一手が見えてくることがある。

【五十嵐より追記】
(この記事を読んで思い出したこと、追加で伝えたいことをここに記入してください)
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