「先生、正直に教えてください。推薦と一般、両方本気でやろうとしたら、どっちも落ちますよね?」
夏期講習が始まる直前の7月、ある高3の男の子が私のもとにそう言いに来ました。目の下には薄いクマがあり、手には推薦対策の小論文ノートと、共通テストの過去問集が一冊ずつ握られていた。両方を持ちながら、どちらにも踏み出せないでいる——その手が、当時の彼のすべてを物語っていました。
この言葉を聞いた瞬間、私の胸の奥で何かが燃え上がりました。悔しさとも焦りともつかない、熱い感情です。なぜなら、この問いを抱えたまま夏を過ごした生徒が、どれだけ悲惨な秋を迎えるか、私には痛いほどわかっているからです。
推薦入試と一般入試の両立。これは、やり方を間違えれば確かに共倒れになります。しかし、「正しい優先順位の設計図」を持って夏を戦えば、どちらも本気で取り組みながら、両方に合格する道は必ず存在します。この記事では、27年以上受験生を見続けてきた私が、その設計図を余すところなく明かします。
「両立は無理だ」と誰かに言われたとしても、諦める必要はありません。ただ、戦略が足りなかっただけなのです。
なぜ「両立しようとした生徒」は夏に崩れていくのか——本質的な原因
推薦と一般の両立に失敗する生徒を見ていると、多くの場合、同じ原因に行き着きます。「時間の使い方が悪かった」「どちらも中途半端だった」——確かにそうです。しかしそれは結果であって、原因ではない。私が27年以上受験生を見続けてきて断言できるのは、本当の原因は「判断軸を持たずに夏に突入すること」だということです。
スカイ予備校に相談に来る生徒の中で、推薦と一般を両立しようとしている生徒の実に7割以上が、7月の段階で「どちらを優先するかの基準」を持っていません。推薦の出願締め切りはいつか、評定はどれくらい必要か、共通テストを利用する推薦なのかどうか——こうした基本情報を整理しないまま、「とりあえず両方やろう」とスタートしてしまう。その結果、小論文の練習をしている最中に「あ、今日英単語やってなかった」と罪悪感を覚え、英単語を開いたら「でも面接練習が……」と頭が分散し、どちらもまともに進まない地獄に陥るのです。
もう一つ、見落とされがちな本質的原因があります。それは「推薦入試の対策時間を、受験勉強の外側に置いてしまう」という思考の罠です。多くの生徒は、推薦対策を「本来の勉強とは別のもの」として捉えます。だから時間割に組み込めない。「今日は推薦の準備をしたから、勉強できなかった」という言い訳が生まれる構造が出来上がってしまう。しかし、これは完全に逆です。推薦対策の中には、一般入試にも直結するアカデミックな思考力、語彙力、論理構成力が含まれています。正しく設計すれば、推薦対策は一般入試の地力を上げる訓練になり得るのです。
さらに付け加えると、夏の7〜8月は推薦入試に向けた「出願書類作成」の時期と、一般入試に向けた「基礎固め」の最重要期が完全に重なります。この時期に何の設計もなく突入すれば、どちらの締め切りにも追われて精神的に消耗し、9月以降の追い込みに向けて最も必要な「自信」が根こそぎ奪われていく。私がこれまで見てきた両立失敗のケースの8割以上が、7月末の時点でメンタルが折れていました。問題は夏の後半ではなく、夏の入口にあるのです。
「両立できるかどうか」は、才能でも根性でも決まりません。夏が始まる前に「判断軸を設計できるかどうか」で決まります。
真逆の結果になった二人——同じ出発点から、なぜ差が生まれたのか
具体的な話をします。数年前、同じ高校の同じクラスから、二人の生徒がスカイ予備校に通っていました。どちらも総合型選抜(旧AO入試)と一般入試の両方を視野に入れており、志望大学の偏差値帯もほぼ同じ。部活の引退時期も同じ7月初旬。条件はほとんど揃っていました。しかし、11月の結果は全く異なるものになりました。
一人は、ある高3の女の子です。彼女は真面目で努力家、しかし「どちらも頑張らなければいけない」という義務感が強すぎた。7月から毎日、午前中は共通テストの問題集、午後は志望理由書の下書き、夜は小論文の添削依頼——という生活を続けました。傍から見ると懸命に取り組んでいるように見えた。しかし8月の終わりに私が彼女と面談したとき、異変に気づきました。志望理由書は何度書き直しても自分の言葉になっていない。共通テストの模試は6月からほとんどスコアが伸びていない。何を聞いても「どちらも大事なので……」と答えが返ってくる。彼女には「判断軸」がなかったのです。
私は彼女に言いました。「今すぐ、推薦の出願日程と共通テストの日程を紙に書いて並べなさい。そして、どちらが先に『勝負どころ』を迎えるかを確認しなさい」と。しかし彼女は「でも両方大切だから……」と動けないままでした。結果、総合型選抜は書類選考で落ち、共通テストも目標に届かず、第一志望には縁遠い結果に終わりました。
もう一人は、同じクラスの男の子です。こちらも総合型選抜と一般入試の両方を目指していましたが、7月の最初の面談で私は彼に一つの問いを投げました。「お前の推薦の出願締め切りはいつで、共通テストを利用するか、しないかを答えられるか?」。彼はすぐに手帳を開き、「出願は9月25日で、共通テスト利用はなしです」と答えました。その答えを聞いて、私は設計図を一緒に描きました。
7月は「推薦の軸を固める月」と定義し、志望理由書と自己PR文の完成を最優先にする。英語と国語の基礎は毎日最低1時間継続するが、新しい参考書には手を出さない。8月の第2週に出願書類が完成したら、そこからはギアをフルに一般入試へ切り替える——このシンプルな設計図を持って彼は夏を戦いました。9月末に総合型選抜の一次通過の連絡が来たとき、彼はすでに共通テスト対策に完全集中していた。最終的に、総合型選抜で第一志望に合格し、一般入試のプレッシャーからも解放されました。
二人の差は、頭の良さでも努力の量でもありませんでした。「いつ、何を、どの順番で」という設計図を持っていたかどうか、ただその一点です。
保護者の皆さんへ——「応援」が子どもの足を引っ張っているかもしれない
保護者の方に、少し厳しいことをお伝えします。これは責めているのではありません。愛情があるからこそ、陥りやすい罠があるという話です。
推薦と一般の両立を目指すお子さんに対して、多くの保護者がやってしまうことがあります。それは「どちらも頑張れ」という励ましです。毎週末に「推薦の準備はどう?」「共通テストの勉強は進んでる?」と両方について聞く。お子さんは「どちらも答えなければいけない」と感じ、どちらも中途半端な報告をするために、どちらも中途半端に続けるようになる。励ましているつもりが、判断軸を持てない状態を家庭で強化してしまっているのです。
本当にすべきことは、「今この時期に、何を優先すべきかを一緒に確認すること」です。「推薦と一般、今月はどちらが先に締め切りを迎えるの?」この一問を、お子さんに投げてみてください。答えられなければ、それが問題の根っこです。答えられたなら、「じゃあ今月はそっちを優先していいよ。もう一方は来月全力でやれ」と背中を押してあげてください。
私、五十嵐はこれまで無数の保護者と面談してきましたが、子どもの受験が上手くいく家庭には共通点があります。それは「優先順位の判断を、子ども自身にさせている」家庭です。親が管理しすぎると、子どもは自分で考える力を失います。しかし完全に放任すれば、子どもは不安に押しつぶされる。「判断の軸を一緒に確認して、あとは信じて待つ」——これが、受験生の保護者に今すぐできる最も重要な一つのことです。
お子さんが両方の入試に全力を出せるかどうかは、勉強量だけではなく、家庭の中に「安心して優先順位を決められる空気」があるかどうかで大きく変わります。
スカイメソッドが実践する「推薦×一般 両立の設計図」——夏を制する3つのアプローチ
スカイ予備校では、推薦と一般の両立を目指す生徒に対して、夏の段階から以下の設計で指導を行っています。表面的なアドバイスではなく、実際に合格を出し続けている具体的な方法です。
① 「推薦締め切り日」を起点にした逆算スケジューリング
最初にやることは、推薦の出願締め切り日を「夏のゴール」として設定することです。その日から逆算して、志望理由書の完成日・面接練習の開始日・小論文の仕上げ日を決める。一般入試対策はその「逆算の隙間」に組み込むのではなく、推薦のゴールまでは「継続すべき基礎項目のみ」に絞って継続させます。新しい参考書を買わない、新しい単元に手を出さない、これが夏前半の鉄則です。推薦の出願が完了した瞬間に、100%一般入試モードに切り替えるための助走期間として、夏前半を設計するのです。
② 推薦対策を「一般入試の地力アップ」として設計する
スカイ予備校では、小論文の指導を単なる「作文練習」として行いません。社会問題に対して構造的に論じる訓練は、現代文の読解力・英語の長文読解力・記述式の回答力に直結します。志望理由書を書くために行う「自己分析」と「大学の研究」は、面接対策にとどまらず、モチベーションの根拠を明確にすることで一般入試の勉強継続力を高めます。推薦対策を「余計な時間」として扱うのをやめ、「一般入試の地力を底上げするトレーニング」として組み込む——この視点の転換だけで、夏の勉強効率は大きく変わります。
③ 週1回の「判断軸チェック面談」でズレを修正する
スカイ予備校では、推薦と一般の両立を目指す生徒に対して、夏の間は週1回の個別面談を必ず実施します。この面談の目的は「今週何をやったか」の確認ではありません。「今の優先順位は正しいか」を問い直す時間です。受験の状況は毎週変わります。模試の結果が出れば一般の戦略を修正しなければならないこともある。推薦の学校説明会に参加して志望度が変わることもある。週1回、立ち止まって設計図を見直す習慣が、夏の共倒れを防ぐ最大の防衛策になっています。
スカイ予備校で27年以上受験生を見続けてきた私だからこそ断言できます。推薦と一般の両立は、夏に「正しい設計図」を持って動き出した生徒にしか、本当の意味では達成できません。そしてその設計図は、一人で描こうとするより、経験のある伴走者と一緒に描いた方が、圧倒的に精度が高くなります。
あなたのお子さんには、まだ夏があります。今から設計図を描くのは、決して遅くありません。
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