
記事の監修者:五十嵐弓益(いがらし ゆみます)
【全国通信教育】最短合格オンラインのスカイ予備校 校長
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はじめに:日本の医師不足問題とは
「医師不足」という言葉はニュースや医療現場で頻繁に耳にするようになりました。日本の医師数は年々増加しているにもかかわらず、なぜ依然として医師不足が問題となっているのでしょうか?
この問題は単に医師の数が少ないという単純な話ではなく、地域や診療科による偏りが大きく影響しています。高齢化社会の進行や医療ニーズの多様化によって、現場の医師には以前にも増して大きな負担がかかっているのが現状です。
本記事では、日本における医師不足の実態、その原因、そして解決に向けた対策について詳しく解説していきます。
医師不足の実態:絶対数不足と偏在問題
医師の絶対数不足
日本の医師数は2020年末時点で33万9,623人と過去最多を記録しています。しかし、人口当たりの医師数で見ると、日本はOECD加盟国の中でも下位に位置しています。具体的には、人口1,000人あたりの医師数がOECD平均3.6人に対し、日本は2.5人となっています。
フランスでは人口1,000人あたり3.4人、ドイツでは4.2人の医師がいることを考えると、日本の医師数は国際的に見て決して十分とは言えません。
地域による偏在
医師不足の問題は、単なる絶対数の不足だけでなく「偏在」という形でも現れています。都道府県別に人口10万人あたりの医師数を見ると、最も多い徳島県では335.7人である一方、最も少ない埼玉県では180.2人と、約2倍の開きがあります。
また、都市部と地方の格差も顕著です。例えば、北海道全体の人口10万人あたり医師数は262.8人ですが、札幌市では353.6人と大きな差があります。このように医師は都市部に集中する傾向があり、地方ではより深刻な医師不足に悩まされています。
診療科による偏在
地域による偏りに加え、診療科によっても医師数には大きな差があります。特に産科、小児科、救急科、外科などの診療科では常に医師が不足している状態です。
日本病院会の調査によると、病院が「不足している・やや不足している」と回答した診療科は、多い順に「麻酔科」「内科」「救急科」「整形外科」「呼吸器内科」となっています。これらの診療科は労働条件が厳しく、また訴訟リスクも高いことから、若手医師に敬遠される傾向にあります。
医師不足が発生する原因
医学部定員制限の歴史
医師不足の主要な原因の一つとして、過去の医学部定員抑制政策が挙げられます。1982年と1997年の閣議決定により、将来的な医師過剰を懸念して医学部の入学定員が抑制されました。
その結果、2003~2007年度には医学部入学定員は7,625人にまで減少。医師不足が顕在化した2008年以降、定員は増加に転じ、2020年度には9,330人まで増加しましたが、医師養成には長い時間がかかるため、効果が表れるまでには時間を要します。
医局制度の崩壊
かつては「医局制度」と呼ばれる仕組みがあり、大学の医局が地方病院や中小病院に医師を派遣していました。しかし、2004年の新臨床研修制度導入などにより、この医局制度が機能しなくなり、特に地方の病院では医師確保が困難になりました。
働き方の問題と長時間労働
医師の業務内容は年々複雑化しています。電子カルテの普及により情報共有は容易になった一方、入力作業に時間がかかるようになりました。また、インフォームドコンセントの浸透により、患者への説明時間も増加しています。
さらに、訴訟リスクの増加に伴い防衛的医療が行われるようになり、過剰検査や詳細な説明など、医師一人あたりの業務量が増加しています。長時間労働や過酷な勤務環境は、医師不足を助長する要因となっています。
女性医師の増加と働き方の課題
女性医師は年々増加しており、2020年には7万7,546人と全体の22.8%を占めるようになりました。しかし、出産・育児と医師としてのキャリアを両立できる環境が十分に整っていないため、産休・育休取得後に現場復帰が困難になるケースも少なくありません。
特に産科や小児科など女性医師の割合が高い診療科では、この問題が顕著に表れています。
医師不足によって生じる問題
医療サービスの質の低下
医師が不足すると、一人あたりの患者数が増加し、診察や治療に十分な時間を割けなくなります。いわゆる「3時間待ちの3分診療」と呼ばれる状況が生まれ、患者満足度の低下や誤診のリスク増加につながります。
新型コロナウイルス感染症の拡大時には、医師不足による医療体制のひっ迫が顕在化しました。重症患者に対応できる医師の不足や、ワクチン接種に携わる医師の確保など、様々な課題が浮き彫りになりました。
地域医療の崩壊
医師不足が深刻な地方では、病院が診療科の休診や閉鎖を余儀なくされるケースが増えています。特に産科や小児科の閉鎖は地域住民の生活に直接影響を与え、出産のために遠方の病院まで通わなければならないといった状況を生んでいます。
これらの状況は「地域医療の崩壊」として問題視されており、地方創生の観点からも重要な課題となっています。
残された医師の負担増加と悪循環
医師が不足すると、残された医師の負担がさらに増加します。過重労働によって疲労やストレスが蓄積し、健康を損なう医師も増えています。その結果、医師のバーンアウトや離職が増加し、さらなる医師不足を招くという悪循環が生まれています。
特に地方の病院では「立ち去り型サボタージュ」と呼ばれる現象も見られ、あまりの過酷さに耐えられなくなった医師が病院を去ってしまうケースが相次いでいます。
医師不足解消に向けた対策
医師の業務負担軽減策
医師の業務負担を軽減するため、医師でなくてもできる業務を他職種に移行する「タスク・シフト/シェア」が推進されています。例えば、事務作業や検査の予約、薬剤の説明などを専門のスタッフに任せることで、医師は診断や治療に集中できる環境作りが進められています。
また、特定看護師(仮称)制度の導入も検討されており、医師の指示のもとで、傷口の縫合や人工呼吸器の操作などを行える看護師の育成も進められています。
医学部定員の見直しと地域枠の拡充
医師の絶対数を増やすため、医学部定員の増加や医学部新設(東北医科薬科大学、国際医療福祉大学)が行われました。また、「地域枠」と呼ばれる、将来特定の地域で医療に従事することを条件に入学できる枠も拡充されています。
2007年度には183人(全体の2.4%)だった地域枠は、2020年度には1,679人(全体の18.2%)にまで増加しました。これにより、地方での医師確保につながることが期待されています。
女性医師の働きやすい環境整備
女性医師が出産・育児と仕事を両立できるよう、柔軟な勤務体制や当直免除制度、院内保育所の設置など、様々な取り組みが行われています。
また、育休後のスムーズな復帰をサポートする研修プログラムや、時短勤務などの選択肢も増えてきています。これらの取り組みにより、女性医師の離職防止と活躍の場の拡大が期待されています。
テクノロジーの活用とオンライン診療
オンライン診療やAIを活用した診断支援システムなど、新技術の導入も医師不足対策として注目されています。特に地方では、遠隔医療の導入により都市部の専門医のサポートを受けることが可能になりつつあります。
画像伝送システムやオンラインカンファレンスを活用することで、地理的な制約を超えた医療連携が実現しています。また、コロナ禍を機にオンライン診療の普及も進んでおり、医師の負担軽減と患者の利便性向上につながっています。
医療機関の連携強化
医師が不足するエリアでは、複数の医療機関が連携して人材を共有する取り組みも効果的です。地域医療連携ネットワークの構築により、限られた医療資源を効率的に活用することが可能になります。
また、多職種との連携を強化することで、医師の業務が偏りを軽減し、より質の高い医療提供体制を構築することができます。
まとめ:持続可能な医療体制に向けて
日本の医師不足問題は、単に医師の絶対数を増やすだけでは解決できない複雑な課題です。地域偏在や診療科偏在の解消、医師の労働環境改善、女性医師の活躍推進など、多角的なアプローチが必要です。
医療の持続可能性を高めるためには、医師の増員だけでなく、医療システム全体の見直しや、テクノロジーの活用、多職種連携の強化など、包括的な対策が求められています。
国や自治体、医療機関、そして患者を含む社会全体が協力して、この問題に取り組むことが、日本の医療を守り、発展させるために不可欠です。医師が働きやすい環境を整えることは、最終的には患者にとっても質の高い医療サービスを受けられることにつながるのです。