模試ではちゃんと点が取れていたのに、本番で頭が真っ白に──。
浪人して挑んだ医学部受験のあの日、私は“緊張”という壁に真正面からぶつかりました。努力してきた分だけ、失敗への恐怖は大きく、心は不安に押し潰されそうに。
でもあの経験が教えてくれたのは、緊張をゼロにするのではなく、上手につきあって「味方にする」技術があるということ。今回は、医学部を目指す受験生に向けて、そんな“本番力”を高める方法を、心理学的な知見と実体験に基づいてまとめてみました。

記事の監修者:五十嵐弓益(いがらし ゆみます)
【全国通信教育】最短合格オンラインのスカイ予備校 校長
■小論文指導歴27年
これまでに指導した生徒は4000人以上、独自のSKYメソッドを考案で8割取る答案の作り方を指導。
2020年4月から、完全オンラインの大学受験予備校となる。過去3年間で国公立大学合格85名。
高1から入会者は国公立大学合格率93%
高2から入会者は国公立大学合格率86%
高3の4月から入会者は国公立大学合格率73%。
スカイ予備校の指導方針は、「大人になっても役に立つ勉強法の習得」です。「自分の人生は自分で切り拓く」教育をします
なぜ本番で緊張してしまうのか
本番での緊張──それはほぼすべての受験生が直面する“避けられない壁”である。模試や日々の演習では冷静に問題を解けていたのに、試験本番になると突然、手が震えたり、頭が真っ白になったりする。なぜ、こうした現象が起きてしまうのだろうか。 _
そのメカニズムを理解するためには、まず人間の「脳の防衛本能」に着目する必要がある。これは「闘争・逃走反応(fight or flight response)」と呼ばれる、生存に関わる極めて原始的な反応だ。人はストレスやプレッシャーを感じると、脳の扁桃体がその刺激を「危険」として判断し、自律神経系のうち交感神経が優位になる。 _
この結果、心拍数の上昇、呼吸の浅さ、筋肉のこわばり、思考の混乱といった反応が起こる。試験会場という特殊な空間、非日常の静けさ、周囲の緊張感──これらが脳にとって「日常ではない=脅威」として認識され、過剰な生理的反応につながる。 _
とくに、以下のような状態に心当たりがある人は要注意である: _
- 問題文の意味が頭に入ってこない _
- 簡単な計算を何度もやり直してしまう _
- 解けない問題で焦り、他の問題にも手がつかなくなる _
- 時計ばかり気になって手が進まない _
つまり、緊張とは「自分の意志ではコントロールしづらい身体の防衛反応」である。だが重要なのは、「緊張すること自体は悪ではない」という視点だ。 _
実際、適度な緊張には集中力を高める効果がある。心理学者ヤーキーズとドッドソンが提唱した「ヤーキーズ・ドッドソンの法則」によれば、覚醒レベルが低すぎても高すぎてもパフォーマンスは落ち、中程度の緊張が最もパフォーマンスを高めるという。 _
したがって、完全に緊張を排除しようとするのではなく、「過度な緊張」をいかにコントロールし、「適度な緊張」に変換していくかが鍵となる。 _
ここで、緊張を悪化させる心理的要因をいくつか挙げておこう: _
【1. 完璧主義】
「全問解けなければ意味がない」「一つのミスも許されない」という思考は、試験中の心理的負荷を増大させる。 _
【2. 結果への執着】
「この試験に落ちたら終わりだ」という極端な思考は、心の視野を狭くし、柔軟な判断力を奪う。 _
【3. 自信の欠如】
日々の勉強において「やってきた」という実感が乏しいと、「本当に自分は通用するのか?」という不安が前面に出てしまう。 _
【4. 過去の失敗体験】
以前に模試や他の試験で失敗した経験があると、その記憶がフラッシュバックして現在の試験にも悪影響を及ぼす。 _ 本章の結論は明確である。緊張は「敵」ではなく「扱うべき感情」である。そしてその扱い方を知り、日常から鍛えておくことで、本番の自分に最もふさわしい精神状態を引き出すことができるのだ。
受験期からできるメンタルの土台づくり
本番での緊張を和らげるには、試験当日のテクニックだけでは不十分である。むしろ、試験本番の精神状態は、それまでの受験期をどう過ごしたかによって決まると言っても過言ではない。緊張に強い精神は、日々の積み重ねによって育まれる「体質」なのだ。 _
以下では、医学部受験生が日頃から意識しておくべきメンタルの土台づくりの方法について、4つの柱に分けて解説していく。 _
【1. ルーティン(習慣)の力を侮るな】 _
人間は「予測可能性」によって安心を得る生き物である。毎日の生活リズムが安定している人ほど、脳は安心し、突発的な事態にも冷静に対応しやすくなる。 _
具体的には、以下のような習慣が有効である: _
- 起床・就寝時刻を一定に保つ _
- 勉強時間を固定化する(例:朝9時〜12時は数学、13時〜15時は英語など) _
- 毎日同じ場所・同じ環境で勉強する _
このように自分の1日を「予定通りに運ぶ」経験を積み重ねておくと、試験当日という“例外的な日”にも、通常運転の精神状態を保ちやすくなる。 _
【2. 睡眠と食事:心の安定は身体から始まる】 _
精神的な安定を支える最も基本的な要素が「睡眠」と「食事」である。睡眠不足は扁桃体の過剰反応を引き起こし、不安や恐怖に対して過敏になることが研究でも示されている。 _
理想的には、毎日7〜8時間の睡眠を確保し、就寝前1時間はスマホやパソコンの画面を見ないことが望ましい。また、試験が午前中にある場合は、朝型の生活に体を慣らしておくことも重要である。 _
食事についても、血糖値の急上昇・急降下を避け、集中力を持続させる食品(例:玄米、納豆、卵、バナナなど)を積極的に取り入れるとよい。 _
【3. 思考のクセを変える:自己対話をポジティブに】 _
本番でのメンタルを支えるのは、「自分との対話」である。 _「やばい」「できる気がしない」「他の受験生の方が頭がいいに違いない」といったネガティブな自己言語は、無意識のうちに自分を追い込んでいく。 _
逆に、「今までやってきたことを出せばいい」「自分は努力してきた」「焦らず一問ずつ取り組もう」といった言葉は、自己肯定感を高め、脳を安心させる。 _
このような「思考の筋トレ」は一朝一夕には身につかない。普段から意識的にポジティブな自己対話をする習慣をつけることが、本番での安定した精神状態につながる。 _
【4. 小さな成功体験の積み重ねが“自信”を生む】 _
緊張に強くなるために最も確実な方法は、「成功体験」を積むことである。成功といっても、大きな模試で上位に入る必要はない。 _
たとえば: _
- 前より10分早く勉強を始められた _
- 昨日できなかった問題が今日は解けた _
- 1_週間、毎日決めた時間に起きることができた _
こうした小さな積み重ねが「自分はやればできる」という感覚を生み出す。自信は、根拠のない楽観ではなく、過去の努力の証拠によってしか培えない。 _ 「なんとなく不安」は、逆に言えば「なんとなくしか努力できていない」ことからくる。具体的な努力と、その結果としての小さな成功が、試験当日の自分を支えてくれる最大のメンタル資源になる。
試験直前・本番直前のメンタルトレーニング
試験前日や当日は、誰しも少なからず不安や緊張を抱える。しかし、そこでパニックに陥るか、冷静さを保ちつつ力を発揮できるかは、「直前の過ごし方」と「緊張を整えるテクニック」の差である。この章では、医学部受験の前日〜当日に効果を発揮する実践的なメンタル管理法を紹介する。 _
【1. 試験前日の過ごし方:不安よりも“安心”を優先】 _
試験前日にありがちなのが、「もっと詰め込まなきゃ」という焦燥感から睡眠や食事のリズムを崩してしまうことだ。しかし、直前の“付け焼き刃”の知識よりも、本番で最大限の集中力を発揮するコンディションの方が何倍も大切である。 _
以下のポイントを守るとよい: _
- 勉強は夕方までに切り上げ、夜は軽い復習やノートの見直しに留める _
- いつも通りの時間に食事をとり、入浴・就寝もルーティンに沿う _
- 寝る前にスマホを見ない(ブルーライトとSNS情報が不安を助長する) _
- 明日の持ち物と移動手段を確認し、不安要素をすべて取り除いておく _
また、リラックスできる音楽やアロマ、好きな本などを用意して「心が落ち着く時間」を意識的につくることも重要だ。試験前日は“自分に安心を与える日”だと割り切ることで、メンタルの安定を得られる。 _
【2. 呼吸法:乱れた自律神経を整える即効テクニック】 _
緊張状態になると呼吸が浅く速くなり、酸素の取り込みが不十分になって脳の働きが鈍る。そのとき役立つのが「4-7-8呼吸法」である。 _
手順は以下の通り: _
- 鼻からゆっくり4秒かけて息を吸う _
- 息を止めて7秒間キープ _
- 口から8秒かけて細く長く吐く _
これを3〜4回繰り返すだけで、副交感神経が優位になり、心拍や血圧が落ち着き、全身の緊張が和らぐ。 _
また、「丹田(おへその下3cmあたり)」に意識を向けながら深く呼吸する「腹式呼吸」も効果的。特に、試験会場に着いてからの待ち時間などにこの呼吸法を用いれば、周囲の緊張に飲まれず、自分のリズムを保つことができる。 _
【3. マインドフルネス:今この瞬間に集中する力】 _
「未来のこと(受かるかどうか)」や「過去のこと(模試でミスした)」に心が飛んでいる状態は、緊張と不安の原因になる。そこで重要なのが、注意を“今この瞬間”に引き戻す「マインドフルネス」の技法である。 _
やり方はシンプル: _
- 目を閉じて自分の呼吸だけに意識を向ける _
- 雑念が浮かんでも否定せず「今、心が不安なんだな」と受け止める _
- そしてまた呼吸に注意を戻す _
これを5分程度行うだけでも、脳の過活動が抑制され、集中力と安定感が戻ってくる。マインドフルネスの実践は、数日間でも習慣づけると効果が高まるので、試験直前期にはぜひ取り入れてほしい。 _
【4. リハーサル効果を最大限に活かす】 _
「本番を疑似体験する」ことは、緊張対策に極めて有効である。人間の脳は「想像」と「現実」の区別が曖昧なため、事前にリハーサルをしておくことで、「既に経験したこと」として処理しやすくなる。 _
模試や過去問演習は、本番を想定した時間・環境で行うように心がけよう。 _
- 時計を用意する _
- 静かな環境で制限時間を守る _
- 服装も本番と同じように整える _
さらに、「問題冊子をめくる手順」や「解答用紙の記入」「見直しのタイミング」など、細かいところまで再現すると、当日の“未知の不安”をかなり減らせる。
試験当日の心の整え方とパフォーマンス維持術
試験本番の日。これまでの努力のすべてを発揮するその瞬間は、否が応でも心が高ぶる。しかし、そこで必要以上に緊張したり、不安に支配されたりしては、実力を発揮することはできない。この章では、試験当日の朝から試験中までを安心して乗り切るための、実践的なメンタルの保ち方を具体的に紹介する。 _
【1. 朝の過ごし方:いつも通り、が最強の安心材料】 _
当日の朝は、特別なことをするよりも「いつも通り」に徹するのが鉄則である。 _
- いつもと同じ時間に起きる _
- 食べ慣れた朝食をとる(油ものは避け、消化の良い和食が理想) _
- 朝の支度もルーティン通りに行う _
試験当日は非日常だと思いがちだが、日常の延長線としてとらえることが、心の落ち着きを保つうえで最も有効である。 _
また、会場へ向かう途中にお気に入りの音楽を聴いたり、空を見上げて深呼吸したりするだけでも、交感神経の過剰な興奮を抑えられる。 _
【2. 試験会場での過ごし方:他人と比べず、自分のペースを貫く】 _
試験会場では、周囲の受験生の様子につい目がいってしまいがちだ。「あの人、ずっと英語の単語帳見てる」「隣の人、めっちゃ余裕そう」──こうした比較は、無意識のうちに自分の不安を増幅させてしまう。 _
そこで意識してほしいのは「内側の自分に集中する」こと。以下のような行動が有効だ: _
- 周囲を見ずに、自分の持参した教材を淡々と見る _
- 深呼吸を数回して、姿勢を正す _
- 「緊張している=本気で臨んでいる証」と受け止める _
また、試験開始直前の時間に「大丈夫、自分は準備してきた」と心の中で唱える“お守りフレーズ”を持つことも、心の安定を支える一助となる。 _
【3. 試験中の立ち回り:流れを断たず、感情に流されない】 _
いよいよ試験開始。ここからは「淡々と解く」ことに集中する。 _
- 最初の数分は頭が硬いのが当たり前。深呼吸して、手を動かすことに集中 _
- 難しい問題に当たっても、決して立ち止まらず「飛ばす勇気」を持つ _
- 一度焦りやミスが出たら、時計を見て呼吸を整える _
大切なのは「試験時間という流れを止めない」ことだ。たとえパニックになりかけても、数秒だけ目を閉じて息を吐き、視線を落ち着かせるだけで、思考は回復してくる。 _ また、「うまくいってないかも」と思ったときは、「それでも今、自分は全力を尽くしている」と自分に声をかけてあげてほしい。
まとめ:緊張は「避けるもの」ではなく「整えるもの」
医学部受験という大きな挑戦を前に、緊張するのは当然である。むしろ、緊張しているという事実は、あなたが本気でこの試験に向き合ってきた証拠でもある。 _
本稿で紹介したメンタル管理法は、特別な才能を必要とするものではない。「日常を整えること」「思考の癖に気づくこと」「緊張と上手に付き合う技術を身につけること」──それらはすべて、今日から始められる小さな習慣の積み重ねである。 _
完璧な準備ができたと感じられる日は来ないかもしれない。しかし、「今まで自分がやってきたこと」を信じて、「今の自分にできること」を本番で出し切れれば、それは紛れもない成功である。 _ どうか最後の瞬間まで、あなた自身を信じてほしい。緊張しても大丈夫。むしろ、その緊張があなたを集中させ、合格へと導く力になる。
心から、応援しています。