みなさん、数学の記号を見ただけで胸がざわつき、手が止まってしまうことはありませんか?
それは決して根性不足ではありません。「数学不安症(Math Anxiety)」と呼ばれる、脳と感情が関わるれっきとした現象なのです。
大学受験を目指すうえで避けては通れない数学。だからこそ、「怖いものは怖い」で終わらせず、科学的に筋の通った方法で、この“数学アレルギー”をほどいていきましょう。

記事の監修者:五十嵐弓益(いがらし ゆみます)
【全国通信教育】最短合格オンラインのスカイ予備校 校長
■小論文指導歴27年
これまでに指導した生徒は4000人以上、独自のSKYメソッドを考案で8割取る答案の作り方を指導。
2020年4月から、完全オンラインの大学受験予備校となる。過去3年間で国公立大学合格85名。
高1から入会者は国公立大学合格率93%
高2から入会者は国公立大学合格率86%
高3の4月から入会者は国公立大学合格率73%。
スカイ予備校の指導方針は、「大人になっても役に立つ勉強法の習得」です。「自分の人生は自分で切り拓く」教育をします
なぜ数学が怖くなるのか
成績との関係
研究によれば、数学不安は成績と中程度の負の相関があることが明らかになっています。相関係数はおよそ−0.28。つまり「気持ちの問題」ではなく、確実に学力に影響を与える要素なのです。
脳のしくみと予期不安
不安はワーキングメモリを圧迫し、途中式の保持や変形の見通しを邪魔します。さらに「解く前」の段階で脳の痛みネットワークが反応し、回避モードに入ってしまうことも分かっています。
言葉の壁と社会的影響
文章題の難しさは数学力だけでなく、言語的複雑さに大きく左右されます。不要な言い回しを減らすだけで正答率が上がるという研究もあります。また、“女子は数学が苦手”というようなステレオタイプ脅威も成績低下に関わります。
👉 数学不安は「能力不足のせい」ではなく、不安が思考を奪い、結果として実力が発揮されにくくなる双方向ループだと理解しましょう。
効く戦略(科学的に裏づけあり)
- 段階的習得×伴走者の支援
小さな成功体験を積み重ねる指導は、不安回路そのものを弱める効果があります。認知行動療法(CBT)も有効です。 - ドキドキを再解釈する
「緊張=失敗の予兆」ではなく「集中の燃料」と捉え直す。短い指示や読み物でも効果が報告されています。 - 具体から抽象へ(CRA)
モノ・図・式の順で“薄める”指導が、抽象理解や転移を助けます。ジェスチャーや数直線も活用しましょう。 - 比べて学ぶ
解法AとBを比較し、メリットや共通点を言語化。誤答例も並べることで「つまずきパターン」を見える化できます。 - 言語の再コーディング
文章題を図やスキーマに変換し、言い換えてから式に落とす。言語的複雑さを減らすことで正答率が上がります。 - 呼吸で整える
試験直前のペース呼吸(4秒吸って6秒吐く)で、不安と注意をコントロール。学校現場でも実証済みです。 - 計算の滑走路をつくる
Cover–Copy–Compare の手順で基礎計算を“滑らかに”。秒数や正答数をグラフ化すれば達成感が得られ、不安軽減につながります。
🛠 実践4週間プラン
- 週1:怖さの地図づくり
どの場面で固まるかを可視化し、暴露リストを作成。下位から少しずつ挑戦。 - 週2:具体→図→式の回廊
一次関数を例に、動く点→座標平面→式と段階を踏む。ジェスチャーで等式の操作を体に刻む。 - 週3:比べる学習
解法AとBを並べ、誤答と比較。文章題は図式化して短い言葉に言い換える。 - 週4:整えるルーティン
模擬環境での練習。開始前に呼吸法、最初は一番やさしい問題で“手を温める”。終了後は「役立った工夫」をメモ。
👨👩👧👦 保護者の方へ
お子さんへの支援は「解法の指導」ではなく「言葉の通訳役」や「整える合図」のサポートが効果的です。うまくいった工夫を家族で共有し、次週の作戦として掲示することで、小さな成功が安心感に変わります。
まとめ
数学不安症は「根性の問題」ではなく、脳・言語・社会的要因が絡む現象です。克服の鍵は:
- 段階的習得と伴走者の支え
- ドキドキの再解釈
- 具体→抽象の橋渡し
- 比較学習
- 言語の再コーディング
- 呼吸で整える
- 計算の滑走路
どれも特別な才能はいりません。今日から5分の工夫で、「怖さ→回避」のループを「整える→一歩進む」に変えていきましょう。