スカイ予備校・五十嵐校長が過去問の傾向を分析し、東北大学医学部保健学科 看護学専攻の出題可能性が高いテーマを厳選した予想問題です。
予想テーマ:看護における共感疲労と自己ケア
【このテーマを予想する根拠】
東北大学保健学科看護学専攻は、看護師の感情労働・バーンアウト・ウェルビーイングに関する研究が盛んであり、近年の医療者メンタルヘルス問題への社会的関心の高まりを反映した出題が予想される。共感疲労は看護の本質と自己保護の両立という倫理的緊張を内包し、論述に適している。
課題文(約1799字)
看護という職業は、他者の苦痛に寄り添うことを本質的な役割とする。患者の痛みや悲しみを受け止め、その人の回復を支えることに、看護の価値は宿る。しかしながら、この「寄り添い」の行為が、援助者自身の心身を蝕む可能性があることは、近年の医療心理学研究において繰り返し指摘されている。アメリカの看護研究者チャールズ・フィグリーは1995年に「共感疲労(Compassion Fatigue)」という概念を提唱し、援助職者が他者のトラウマや苦痛に継続的に接触することで生じる二次的外傷性ストレスと感情的消耗の複合状態を体系的に記述した。共感疲労は単なる職業的疲弊ではなく、援助者としての機能そのものを根底から損なう深刻な状態であり、現代看護が直面する重要な課題の一つとなっている。
共感疲労の症状は多岐にわたる。感情的な麻痺や無感覚、患者への関心の低下、慢性的な倦怠感、過覚醒状態、さらには侵入的思考や悪夢といった外傷後ストレス障害(PTSD)類似の症状が報告されている。日本看護協会が2021年に実施した調査によれば、病院に勤務する看護師の約62%が「感情的に消耗している」と回答し、そのうちの約30%が「患者への関心が薄れたと感じることがある」と述べた。特に集中治療室(ICU)や緩和ケア病棟、救急外来などの高ストレス環境に従事する看護師において、共感疲労のスコアが有意に高いことが複数の国内外の研究で確認されている。こうした状況は、看護師個人の問題にとどまらず、ケアの質の低下や医療事故リスクの上昇、さらには看護師の離職率の増加という形で医療システム全体に波及する。
共感疲労が生じる機序を理解するためには、看護が「感情労働(Emotional Labor)」であるという視点が不可欠である。社会学者アーリー・ホックシールドが1983年に提唱したこの概念は、職業上の規範に従って自己の感情を管理・調整することを指す。看護師は、患者の前では穏やかで温かな態度を維持しながら、内面では強烈な悲しみや怒り、恐怖を抑圧することを繰り返す。この感情の「表層演技」と「深層演技」の乖離が慢性化すると、自己の感情との接続が失われ、共感的応答そのものが困難になる。すなわち、共感疲労は看護師の共感能力の欠如ではなく、過剰な共感の動員とその慢性的抑圧によって引き起こされるパラドックスを内包した現象なのである。
この問題への対応として、近年注目を集めているのが「自己ケア(Self-Care)」の概念である。世界保健機関(WHO)は2019年に発表した「自己ケアに関するグローバル勧告」の中で、援助職者自身の健康維持が良質なケアの提供に不可欠であることを明確に位置付けた。具体的な介入としては、マインドフルネスに基づくストレス低減法(MBSR)、スーパービジョン制度の充実、同僚間のピアサポートプログラム、および感情的な体験を言語化するリフレクション実践などが有効性を示している。東北大学大学院医学系研究科が関与した研究においても、定期的な事例カンファレンスと感情共有の場を設けた病棟では、看護師の共感疲労スコアが介入後6ヶ月で有意に低下したことが報告されており、組織的・制度的支援の重要性が裏付けられている。
しかしながら、自己ケアの推進においては、重大な倫理的緊張が存在することも見落としてはならない。看護の倫理的基盤の一つである「献身性」は、自己の利益よりも患者の福祉を優先することを求める。この規範が内面化されるとき、自己ケアへの傾倒は「患者を顧みない利己的行動」として自己否定的に解釈される危険性がある。この認識の歪みを是正するためには、自己ケアを個人的な贅沢としてではなく、持続可能な看護実践を可能にするための専門職的責任として再定義する教育的・文化的変容が求められる。看護師が自らの内面に正直であることは、患者との真正な関係性を築くための前提条件であり、共感の枯渇を防ぐことは結局のところ患者への最善のケアに直結する。東北大学医学部保健学科が育もうとする看護師像とは、科学的知識と高度な技術のみならず、自己の感情と誠実に向き合い、それを専門的実践に統合できる成熟した人間としての看護師ではないだろうか。共感疲労と自己ケアをめぐる問いは、看護とは何かという根源的な問いに私たちを立ち戻らせる。
設問
問1 本文中の「共感疲労」とはどのような状態を指すか、100〜150字以内で説明しなさい。(100〜150字以内)
問2 筆者は看護における「感情労働」が共感疲労を引き起こすメカニズムをどのように説明しているか、200〜300字以内でまとめなさい。(200〜300字以内)
問3 筆者は「自己ケアを専門職的責任として再定義する必要がある」と主張している。この主張について、あなた自身の考えを600字以内で述べなさい。(600字以内)
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