SNSの合格体験記を読みすぎて落ちた——27年間で見てきた「情報中毒」受験生の末路

SNSの合格体験記を読みすぎて落ちた——27年間で見てきた「情報中毒」受験生の末路 五十嵐校長コラム

「校長先生、私、全部やったんです。あの人が紹介してた参考書も、あの人のスケジュールも、全部——」

3月の中旬、不合格通知を受け取った翌日に私の部屋を訪ねてきたMさん(当時高3・女子)は、そう言いながら泣き崩れた。机の上には付箋だらけのノート。スクリーンショットを印刷した紙の束。フォローしている受験アカウントは200を超えていた。

私はその束を静かに手に取りながら、正直に言うと、胸が痛かった。これだけ努力した子が、なぜ——という気持ちではない。これだけ努力の方向を間違えた子を、なぜ途中で止めてやれなかったのか、という後悔だ。

「合格体験記」は毒にも薬にもなる

SNSが普及して以来、受験生が触れる情報の量は爆発的に増えた。10年前なら本屋に並ぶ数冊の合格体験記を読むのが精一杯だったものが、今はスマートフォンを開けば毎日何十件もの「東大合格者の勉強法」「医学部現役合格のルーティン」が流れてくる。

これ自体は悪いことではない。良質な情報に触れることで視野が広がり、モチベーションが上がる受験生もいる。問題は「読みすぎること」ではなく、「読み方を間違えること」だ。27年間で見てきた現場だからこそ断言できます——SNSの合格体験記を正しく使えている受験生は、全体の1割にも満たない。

Mさんに何が起きていたか

話をMさんに戻そう。彼女は高2の冬からSNSで受験アカウントをフォローし始め、毎晩1〜2時間かけて合格体験記や勉強法の投稿を読み込んでいた。最初は情報収集のつもりだったが、気づけば「読むこと」自体が日課になっていた。

ある東大合格者が「世界史は〇〇の参考書一択」と言えば翌日Amazonで注文する。別の早稲田合格者が「英語は毎朝シャドーイング30分」と言えばその週から取り入れる。医学部合格者が「数学は夏までに青チャートを3周」と言えば自分のスケジュールを組み直す。

私が彼女の学習記録を見て気づいたのは、参考書が異常に多いこと、そして一冊一冊が中途半端にしか終わっていないことだった。世界史だけで参考書が7冊あった。7冊を中途半端にやるくらいなら、2冊を完璧に仕上げた方が何倍も力がつく——これは受験指導の基本中の基本だ。

「なぜ次々と変えたの?」と聞くと、彼女はこう答えた。「だって、合格した人がそれをすすめていたから、私がやっている参考書より絶対にいいと思って……」

私はその瞬間、すべてを理解した。

合格体験記が「嘘」である理由

誤解しないでほしいが、合格体験記を書いた受験生は嘘をついていない。彼・彼女たちは本当にその参考書で合格したのだ。しかしここに、決定的な落とし穴がある。

合格体験記に書かれているのは「その人の話」であって、「あなたの話」ではない。

東大に合格したAくんが「〇〇の問題集だけやった」と言う場合、彼には中学時代から培った数学的センスがあったかもしれない。難関高校で鍛えられた読解力があったかもしれない。家庭教師に週3回見てもらっていたかもしれない。SNSの投稿140文字に、そのすべては書かれていない。

つまり合格体験記というのは、「氷山の一角」だ。水面上に見える「参考書名」や「勉強時間」だけを真似しても、水面下にある「その人固有の土台」がなければ同じ結果にはならない。

これは「合格体験記が役に立たない」ということではありません。「文脈を無視して真似すること」が危険なだけです。

もう一人の事例——Tくんの「比較地獄」

もう一人、忘れられない生徒がいる。国立大学工学部を目指していたTくん(当時高3・男子)だ。彼はMさんとは少し違うタイプで、参考書を次々変えるわけではなかった。しかし彼にはもっと深刻な問題があった。

彼はSNSで毎日、同じ志望校を目指す受験生の「勉強時間報告」を見ていた。「今日も12時間勉強した」「模試でA判定出た」「〇〇大学の過去問で合格点超えた」——そういった投稿を毎晩チェックしては、自分と比較していた。

7月に私が面談したとき、彼の顔色は明らかにおかしかった。「最近どう?」と聞くと、「みんなすごすぎて、自分が何をやっても無駄な気がしてきました」と言う。

私は少し強い口調で言った。「Tくん、SNSに出てくる受験生は、全国の受験生の代表じゃない。情報発信できる余裕がある人間が発信しているだけだ。毎日12時間勉強している受験生が、毎日SNSに投稿できると思うか?」

彼はしばらく黙っていた。そして「……確かに」と小さく言った。

私がこの瞬間に感じたのは、怒りではなく、悲しさだ。こんなに真面目で、こんなに頑張っている子が、画面の中の「幻影」に潰されかけている。27年この仕事をしていて、こういう場面が一番つらい。

Tくんはその後、SNSを受験期間中に完全に断ち、第一志望に合格した。彼が合格した要因を一言で言えば「他人の情報を遮断して、自分の課題に集中できたこと」に尽きる。

では、合格体験記とどう向き合うべきか

私がスカイ予備校で生徒に伝えているのは、シンプルな原則だ。

合格体験記を読むなら「戦略」だけを読め。「戦術」は真似するな。

戦略とは「いつ、何を、どの順番で仕上げたか」という大きな流れのことだ。「夏までに基礎を固めて、秋から過去問演習に入った」という流れは参考になる。一方で戦術、つまり「どの参考書を使ったか」「何時に起きたか」「どのアプリを使ったか」という細部は、その人の個性・環境・学力に依存する部分が大きい。ここを真似しても意味がない場合がほとんどだ。

もう一つ言うなら、合格体験記を読む「時間」を決めることだ。毎晩だらだらと読み続けるのではなく、「月に一度、30分だけ読む」と決める。それ以上は読まない。情報は「量」ではなく「質と使い方」で決まる。

情報が多い時代の「本当の強さ」

情報が少なかった時代の受験生は、手元にある数少ない参考書を信じてやり切るしかなかった。今の受験生は選択肢が多すぎるがゆえに、「もっと良い方法があるんじゃないか」という疑念を常に抱えながら勉強することになる。

私は断言する。今の時代に合格する受験生の共通点は「情報を多く持っていること」ではない。「情報を取捨選択して、一つのことをやり切れること」だ。

MさんもTくんも、決して努力が足りなかったわけではない。Mさんはその後、浪人して志望校の一つ下のランクに合格した。彼女が浪人中に変えたことは一つだけ——SNSを見る時間をゼロにして、私が指定した参考書だけを繰り返したことだ。「こんなにシンプルでよかったんですね」と合格後に言った彼女の顔を、私は今でも覚えている。

受験は情報戦ではない。実力戦だ。情報はその実力をつけるための「補助」に過ぎない。補助が主役になった瞬間、受験生は道を見失う。

もしあなたが今、毎晩SNSで合格体験記を読み漁っているなら、一度立ち止まってほしい。その時間で、手元の参考書を1ページでも進められないか——そう問いかけてみてほしい。

スカイ予備校では、一人ひとりの学力と志望校に合わせて「あなただけの戦略」を一緒に考えている。他の誰かの合格体験記ではなく、あなた自身の合格体験記を書くために。気になる方は、ぜひ一度、無料相談に来てみてください。

【五十嵐より追記】
(この記事を読んで思い出したこと、追加で伝えたいことをここに記入してください)
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