「先生、私、記述式が本当に苦手で……どうしたらいいですか?」
毎年、この時期になると必ず聞く言葉だ。相談してくる生徒の顔は一様に暗く、まるで自分には生まれつき「記述の才能」がないとでも信じ込んでいるかのような表情をしている。
私はそのたびに、少しだけ間を置いてから聞き返すことにしている。
「で、今まで何枚、書いてきた?」
答えはだいたい決まっている。「……3枚、くらいです」。多くて5枚。中には「1枚も書いていません」という生徒さえいる。
これが、29年間私が見てきた「記述が苦手な受験生」の正体だ。
「苦手」ではなく「やっていない」だけです
断言する。記述式が苦手だと感じている受験生の9割は、記述が苦手なのではない。ただ、圧倒的に書く量が足りていないだけだ。
これが、この記事で私が最も伝えたい「逆説」であり、本質的な気づきだ。
多くの生徒は「記述の解き方」を頭で理解しようとする。参考書を読み、「PREP法」や「三段論法」を暗記し、模範解答を眺めて「なるほど、こう書けばいいのか」と納得する。そしてノートを閉じる。
だが、書いていない。
私はこれを見るたびに、水泳の教本を丸暗記して「泳ぎ方はわかった」と言っている人間を想像する。プールに入らなければ、永遠に泳げるようにはならない。記述式も全く同じ構造だ。
Aさんのケース——「わかっているのに書けない」の正体
数年前、国公立大学の医学部を目指していたAさん(女性・高校3年生)が夏期講習の面談にやってきた。
彼女は非常に優秀で、マーク模試では常に上位10%に入っていた。ところが、記述模試になると途端に偏差値が10以上落ちる。本人も「なぜ落ちるのかわからない」と首をかしげていた。
私は彼女に、これまで書いてきた記述の答案を全部持ってくるよう言った。
翌日、彼女が持ってきたのは模試の答案用紙が4枚だけ。あとは何もない。
「Aさん、模試以外で記述の練習はしてきた?」
「……問題集の解説を読んで、確認はしていました」
私はそのとき、正直に言えば少し悲しくなった。これだけの読解力と基礎知識を持っている生徒が、「書く」という作業だけをすっ飛ばしてきたために、夏の時点で大きなビハインドを背負っている。もったいない、という気持ちと、でもまだ間に合う、という確信が同時に湧いてきた。
私がAさんに課したのはシンプルな処方箋だった。毎日1問、必ず手を動かして書く。解説を読む前に、必ず自分の答案を完成させる。それだけだ。
結果として、Aさんは第一志望の医学部に合格した。記述の偏差値は秋の模試で8ポイント上がった。「書く量を増やしただけ」で、だ。
「対策している」という錯覚が一番危ない
もう一つ、現場でよく見る危険なパターンがある。
それは「小論文の参考書を読むことを、小論文の対策だと思っている」という錯覚だ。
Bさん(男性・浪人生)は、私のところに来たとき、小論文の参考書を4冊持っていた。全部に付箋が貼られ、線が引かれていた。「ちゃんとやってきました」という自信がにじみ出ていた。
私は彼に言った。「じゃあ、今ここで800字書いてみて」。
テーマは「AIと人間の共存について、あなたの考えを述べよ」。ありきたりなテーマだ。参考書にも似たような例題が載っていたはずだ。
30分後、Bさんが書いてきたのは約200字。しかも途中で止まっていた。
「どこで詰まった?」と聞くと、彼はこう言った。「頭の中にはあるんですけど、文章にならなくて……」
これだ。これが「参考書を読むことを対策だと思っている」受験生の末路だ。頭の中にある考えを、制限時間内に、採点者に伝わる日本語として出力する——この訓練だけが、記述式の得点を上げる唯一の方法だ。参考書はその補助教材に過ぎない。
私はBさんに、参考書を全部ロッカーにしまわせた。そして「まず100枚書いてから、また参考書を開こう」と告げた。最初は戸惑っていた彼だが、2ヶ月後には800字を45分で書き切れるようになっていた。
29年間で見えた「伸びる生徒」と「伸びない生徒」の分岐点
29年間で見てきた現場だからこそ断言できるが、記述式で伸びる生徒と伸びない生徒の差は、才能でも地頭でもない。
「書いた枚数」だけだ。
伸びる生徒は、下手でも恥ずかしくても、とにかく書く。最初の答案はひどい。論理が飛躍していたり、字数が全然足りなかったり、主語と述語がねじれていたりする。それでも書く。書いた答案を誰かに見せて、赤ペンを入れてもらって、また書く。
伸びない生徒は、「もっと準備してから書こう」と思い続ける。参考書を読み、解説を眺め、模範解答を写して満足する。準備は永遠に終わらない。
水泳の話に戻るが、プールに入るのが怖い気持ちはわかる。最初は溺れるかもしれない。みっともない姿を見せたくないという気持ちもある。でも、プールに入らない限り、絶対に泳げるようにはならない。
では、何から始めればいいのか
具体的に話す。
まず、今日から「読む」より「書く」に時間を割くと決めること。比率で言えば、読む1に対して書く3くらいが適正だと私は考えている。
次に、書いた答案を必ず「人の目」にさらすこと。自己採点には限界がある。自分の文章の「当たり前」に気づけるのは、他者の視点だけだ。学校の先生でも、予備校の講師でも、信頼できる友人でもいい。「これ、意味わかる?」と聞くだけでも大きな気づきが生まれる。
そして、「上手く書こう」という意識を一旦捨てること。最初の目標は「制限時間内に字数を埋めきること」だけでいい。内容の質は、量をこなした後から自然についてくる。
記述式は、センスの問題ではない。練習量の問題だ。これを読んでいる受験生に、もう一度だけ問いかけたい。
あなたは今月、何枚書いたか?
その答えが、あなたの「記述の実力」の正体だ。
最後に——スカイ予備校での取り組みについて
スカイ予備校では、記述式・小論文の対策として「書いた答案をその場で添削・フィードバックする」という指導を大切にしている。参考書を渡して「読んでおいて」で終わる指導は、私の考える指導ではない。
書かせて、見て、返して、また書かせる。この繰り返しだけが、記述式の得点を本当の意味で上げる。
もし「自分の答案を誰かに見てほしい」「何から手をつければいいかわからない」と感じているなら、一度スカイ予備校に相談に来てほしい。答案1枚持ってきてくれれば、私が直接見る。それだけで、あなたの「記述の現在地」は必ずわかる。
(この記事を読んで思い出したこと、追加で伝えたいことをここに記入してください)



