周囲に本音を言えないまま苦しんでいる――。
受験期になると、こうした悩みは特に強くなります。友達と成績の話になっても、心の中は焦りでいっぱいなのに「大丈夫」と笑ってしまう。親や先生に相談したいのに、「怒られるかも」「失望されるかも」と思うと、言葉が出てこない。
本当は誰かに不安を聞いてほしいのに、心に閉じ込めるしかない。その状態が続くと、「言えない自分は弱い」と自分を責めてしまう――。
でも、まず知ってほしいことがあります。
本音を言えないのは弱さではありません。
それは“関係を大切にしたい”という優しい心の働きでもあるからです。

記事の監修者:五十嵐弓益(いがらし ゆみます)
【全国通信教育】最短合格オンラインのスカイ予備校 校長
■小論文指導歴27年
これまでに指導した生徒は4000人以上、独自のSKYメソッドを考案で8割取る答案の作り方を指導。
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なぜ「本音」が言えなくなるのか
受験期に本音が言えなくなる背景には、いくつかの心理的要因が重なっています。それを一つずつ整理すると、自分の心を冷静に見つめ直すヒントが見えてきます。
①「弱みを見せたくない」防衛本能
本音を言えない最も大きな理由は、「弱い自分を見せたくない」という防衛本能です。受験期は、自分の努力や実力が試される時期です。そのため、少しでも「不安」「焦り」「自信のなさ」を見せると、「負けを認めたような気がする」と感じてしまう人が多いのです。
特に、同じ志望校を目指す友人がいる場合は、「相手に劣っていると思われたくない」「ライバルに弱点を知られたくない」という意識が働きます。その結果、本当は不安で押しつぶされそうでも、「順調だよ」と強がってしまうのです。
②「迷惑をかけたくない」という優しさ
もう一つの理由は、「人に迷惑をかけたくない」という思いやりの感情です。家族や先生が忙しそうにしていると、「こんな悩みを話したら迷惑になるんじゃないか」と考えて、相談をためらってしまいます。また、「泣き言を言ってもどうにもならない」と感じて、心の中だけで抱え込む人も少なくありません。
これは、非常に真面目で責任感のある人ほど陥りやすい傾向です。しかし、実際には「話してもらえた方がうれしい」と思っている大人は多く、迷惑どころか“信頼の証”として受け止めてくれることも少なくありません。
③「期待を裏切りたくない」というプレッシャー
親や先生からの期待が大きいほど、本音を言いづらくなるケースもあります。「あんなに応援してもらっているのに、弱音なんて吐けない」「今さら志望校を下げたいなんて言えない」といった思いが、自分の口を閉ざしてしまうのです。
しかし、この「期待を裏切りたくない」という思いは、裏を返せば「応えたい」という優しさでもあります。そして、期待に応えようとする気持ちが大きい人ほど、自分を追い詰めやすい傾向があります。本音を押し殺して頑張ることが“親孝行”ではありません。むしろ、正直な気持ちを伝えることの方が、長期的には良い結果を生むことが多いのです。
本音を言えないことで起きる「心の負担」
本音を言えないまま時間が経つと、心は少しずつ疲弊していきます。最初は「我慢すれば大丈夫」と思っていても、やがて「誰にもわかってもらえない」「自分だけが取り残されている」という孤独感が強まっていきます。
この状態が続くと、勉強への集中力が落ちたり、モチベーションが下がったりするだけでなく、体調にまで影響が出ることもあります。心理学的にも、「感情を抑え込むこと」はストレス反応を強め、心身の健康に悪影響を及ぼすことがわかっています。つまり、「本音が言えない」という問題は、単なる気持ちの問題ではなく、学習効率や健康に直結する大きな課題なのです。
「話すこと」は甘えではない
本音を言うことに罪悪感を持ってしまう人もいます。「こんなことを話してもしょうがない」「弱音を吐くなんて甘えだ」と自分を責めてしまうのです。しかし、「話すこと」は決して甘えではありません。それは、自分の心を整えるための“戦略”です。
人間の脳は、感情を「言葉にする」ことで整理される性質があります。頭の中でぐるぐると回っていた不安や悩みも、言葉にすることで構造化され、「本当に悩んでいることは何なのか」が見えてきます。これは「ラベリング効果」と呼ばれ、心理療法の現場でも活用されている方法です。
つまり、話すことは「悩みを軽くするための科学的な方法」でもあるのです。それを我慢してしまうのは、スポーツ選手が体の不調を隠して練習を続けるようなもの。やがて大きな故障につながってしまいます。
本音が言えない人ほど「優しい」
実は、「本音が言えない」と悩んでいる人ほど、他人を思いやる優しい心の持ち主です。「言ったら相手が嫌な気持ちになるかも」「迷惑になるかも」と考えられるのは、人の気持ちに敏感だからこそです。そして、自分の本音を押し殺してでも、関係を壊したくないと願っている証拠でもあります。
しかし、その優しさが“自分を犠牲にする”方向に向かってしまうと、長期的には心が壊れてしまいます。本音を言うことは、人間関係を壊すことではありません。むしろ、関係を「より本物にする」ための大切な一歩です。
本音を「上手に伝える」技術
周囲に本音を言えずに苦しいという状態を解消するには、「正直に話す勇気」だけでなく、「上手に伝える技術」も大切です。本音をそのまま感情のままにぶつけてしまうと、誤解や衝突を生んでしまうことがあります。しかし、伝え方を工夫すれば、相手との関係を壊さずに本音を共有することは可能です。
ポイントは、「感情」ではなく「事実」と「希望」を軸に話すことです。たとえば、「勉強がつらい」という感情だけを伝えるのではなく、「最近、数学の応用問題に時間がかかっている(事実)。だから、勉強の進め方を一緒に考えてもらえると助かる(希望)」というように、冷静な構造で伝えます。これにより、相手は「共感」だけでなく「具体的なサポート」をしやすくなります。
「Iメッセージ」で衝突を防ぐ
本音を伝えるときに意識してほしいのが、「Iメッセージ」という考え方です。これは、「あなたが○○だから」ではなく、「私は○○と感じている」と自分を主語にして話す方法です。
たとえば、「あなたが成績のことばかり言うからつらい」ではなく、「私は成績の話を聞くとプレッシャーを感じてしまう」と伝えるのです。この言い方にすると、相手を責めている印象が薄れ、受け入れられやすくなります。本音は、表現の仕方一つで「攻撃」にも「対話」にもなります。相手との関係を守りながら本音を伝えるには、この“言い回しの技術”がとても有効です。
小さなことから話してみる
本音が言えない人ほど、「一気に全部を話さなければ」と考えてしまいがちです。しかし、それは心への負担が大きく、余計に口が重くなってしまいます。そこでおすすめなのが、「小さな本音」から話してみることです。
たとえば、「最近、ちょっと疲れているんだよね」「勉強の計画が思ったより進まなくてさ」といった軽い言葉でも構いません。小さな本音を出す練習を繰り返すことで、「話しても大丈夫なんだ」という安心感が育ち、次第に大きな本音も言えるようになります。
本音を「言える相手」を選ぶ
すべての人に本音を言う必要はありません。大切なのは、「安心して話せる人」を見つけることです。信頼できる先生、気持ちを否定せずに聞いてくれる友人、話を整理してくれる家族――そうした相手なら、本音を共有することが前向きなエネルギーにつながります。
反対に、「すぐ否定する人」「競争心が強くてマウントを取る人」には、あえて本音を話さないという選択も大切です。本音を言うことと、無防備になることは違います。“誰に話すか”という選択は、“どう話すか”と同じくらい重要です。
「書く」という方法も効果的
どうしても口に出すのが難しい場合は、「書く」という方法も有効です。日記のような形で自分の気持ちを書き出すだけでも、感情が整理され、頭の中がクリアになります。また、手紙やメッセージという形で相手に本音を伝えるのも一つの手です。言葉にする勇気が出ないときは、「書く」というステップを挟むことで、心のハードルがぐっと下がります。
「言えない自分」を否定しない
ここで最も大切なことを伝えます。それは、「本音を言えない自分を否定しないでほしい」ということです。本音が言えないのは、決して弱さではありません。むしろ、それだけ“人との関係”を大切にしている証です。あなたが「言えない」と感じる背景には、優しさや思いやり、責任感があります。
そして、たとえ本音が言えなくても、それは「前に進んでいない」という意味ではありません。心の中で自分の気持ちと向き合い、少しずつ言葉にしていこうとしているだけでも、それは確実な前進です。
本音を言うと「孤独」が減る
本音を話すことには、もう一つ大きな効果があります。それは、「孤独が減る」ということです。人は、自分の本当の気持ちを分かってもらえたとき、強い安心感とつながりを感じます。「自分だけがつらいと思っていたけど、同じように悩んでいる人がいた」「話してみたら、思ったより理解してもらえた」と気づくだけで、心は軽くなります。
孤独感が薄れると、勉強への意欲や集中力も自然と回復します。本音を言うことは、勉強とは関係ないようでいて、実は「受験を乗り越える力」に直結しているのです。
「話す」は信頼関係を深める行為
多くの人が誤解していますが、本音を話すことは「関係を壊すリスク」ではなく、「関係を深めるチャンス」です。正直な気持ちを共有することで、相手はあなたの本当の姿を知り、より深く理解してくれるようになります。信頼関係とは、表面的なやり取りではなく、「本音を共有できる経験」から生まれるものです。
勇気を出して一言でも本音を話した瞬間から、あなたの人間関係は少しずつ変わっていきます。そして、その変化は、受験という長い道のりを支える大きな支えになってくれるはずです。
まとめ
周囲に本音を言えずに苦しいという悩みは、受験生の多くが抱える心の重荷です。その背景には、「弱さを見せたくない」「迷惑をかけたくない」「期待を裏切りたくない」といった人間らしい感情があります。しかし、本音を言えないままでは、孤独やストレスが蓄積し、勉強にも悪影響を与えかねません。
本音を伝えるときは、「感情ではなく事実と希望を話す」「Iメッセージを使う」「小さな本音から始める」といった工夫が効果的です。信頼できる人を選び、場合によっては「書く」という方法も取り入れましょう。そして、何より「言えない自分」を責めず、少しずつ心の扉を開いていくことが大切です。
本音を共有することは、あなたの受験生活に「支え」と「つながり」をもたらします。勇気を出して一歩踏み出せば、孤独は薄れ、心は驚くほど軽くなるでしょう!



