「お金がないから諦めます」と言った生徒を、私が引き止めた理由――27年間で学んだ、本当の壁の正体

「お金がないから諦めます」と言った生徒を、私が引き止めた理由――27年間で学んだ、本当の壁の正体 五十嵐校長コラム

「先生、私、受験やめます。お金がないので」

その言葉が出たのは、11月の面談室だった。志望校への合格可能性が少しずつ見えてきた時期に、Aさんは突然そう切り出した。うつむいたまま、手を膝の上でぎゅっと握りしめていた。私はすぐに返事をしなかった。何か言うよりも先に、その沈黙の重さを全部受け取る必要があると感じたからだ。

「諦める」という言葉の裏にあるもの

Aさんは県内の公立高校に通う3年生だった。成績は着実に伸びていて、第一志望の国立大学への合格ラインに手が届きそうなところまで来ていた。模試の判定もC判定からB判定へと上がっていた時期だった。

「急にどうしたの」と私は聞いた。

「父の会社が……うまくいってないみたいで。母から、大学は地元の短大にしてほしいって言われました」

私はその瞬間、正直に言えば、胸が痛かった。27年間この仕事をしていると、こういう場面に何度も立ち会う。成績が伸びてきた生徒が、学力以外の理由で夢を手放そうとする瞬間に。そのたびに私は「これは本当に仕方のないことなのか」を自分に問いかける。

Aさんに聞いた。「奨学金のことは調べた?」

「……調べてないです。どうせ難しいと思って」

そこだった。私が引き止めた、本当の理由は。

「お金がない」は諦める理由ではなく、調べていないサインだった

誤解しないでほしいのだが、私は「経済的な苦しさは関係ない」などと無責任なことを言いたいわけではない。家庭の事情は、確かに受験に大きく影響する。それは現実だ。

ただ、27年間で見てきた現場だからこそ断言できます。「お金がないから諦める」と言う生徒の9割以上は、使える制度を一つも調べていない段階でその結論を出している。

諦めているのではない。調べることを諦めているだけなのだ。

これが、私がいつも感じる「本当の壁の正体」だ。経済的な壁ではなく、情報の壁。そして、情報を取りに行く気力が折れている、その心理的な壁。

Aさんの場合も、一緒に調べ始めたら30分も経たないうちに選択肢がいくつも出てきた。日本学生支援機構の給付型奨学金、大学独自の授業料減免制度、地方自治体の支援制度。国立大学であれば、授業料免除の審査に通れば年間50万円以上が免除になるケースもある。

「こんなにあるんですね」とAさんは言った。その顔が、さっきとは少し違って見えた。

もう一人の生徒・Bの話をさせてほしい

Aさんの話だけでは伝わりきらないかもしれないので、もう一人紹介する。

Bくんは数年前に私の塾に来た男子生徒で、母子家庭だった。お母さんは夜遅くまで働いていて、塾の費用を出すために本当に無理をしていた。Bくん自身もそれをわかっていたから、「自分のせいで母に苦労をかけている」という罪悪感を常に抱えていた。

ある日、彼は私にこう言った。「大学に行ったら、母がもっと大変になる。だから就職しようと思います」

私はその言葉を聞いて、すぐに否定しなかった。就職という選択肢を馬鹿にするつもりは一切ない。ただ、私が気になったのは彼の目だった。「就職したい」ではなく、「就職するしかない」という目をしていた。

私はBくんのお母さんに連絡を取り、三者面談の場を設けた。そこで初めて、お母さんが「大学に行かせてあげたかった」という本音を話してくれた。息子に負担をかけたくないから、あえて何も言わなかったのだと。

Bくんは黙って泣いていた。

その後、私たちは一緒に給付型奨学金と大学の授業料免除制度を調べ、Bくんは翌春、志望していた工学部に合格した。お母さんからお礼の電話をもらったとき、私は受話器を持ったまましばらく動けなかった。

「諦めさせること」は、簡単だ

正直に言う。Aさんが「やめます」と言ったとき、私が「そうか、残念だね」と言えば、その場は丸く収まった。保護者の意向もあるし、家庭の事情に踏み込むのはリスクがある。引き止めることは、ある意味でエネルギーがいる。

でも私はこう考える。生徒が「諦める」と言うとき、その言葉の半分は「誰かに止めてほしい」というサインだ。特に、成績が伸びてきている生徒がそう言うときは。

私がこの仕事を27年続けてこられたのは、そのサインを見逃さないようにしてきたからだと思っている。見逃すのは簡単だ。でも、その瞬間に踏み込めるかどうかで、一人の人間の人生が変わることがある。それを何度も目撃してきたから、私は踏み込むことをやめられない。

奨学金と向き合うための、最初の一歩

ここで少し具体的な話をしておく。「奨学金」という言葉に対して、「借金になるから怖い」というイメージを持っている家庭は多い。それは間違っていない。貸与型の奨学金は返済義務がある。だから慎重になるのは当然だ。

ただ、現在は給付型奨学金の制度が大きく拡充されている。日本学生支援機構の給付型奨学金(旧・高等教育の修学支援新制度)は、住民税非課税世帯やそれに準ずる世帯であれば、授業料の減免と合わせて年間で相当な支援を受けられる。さらに各大学が独自に設けている授業料免除・減額制度もある。

「うちは対象外だろう」と思い込む前に、まず調べることだ。私が言いたいのはそこだけだ。

Aさんは結局、国立大学に現役合格した。給付型奨学金と授業料免除を組み合わせて、実質的な自己負担を大幅に下げることができた。合格発表の日、お母さんから届いたメッセージには「先生に相談して本当によかったです」とあった。私はそのメッセージを今でも覚えている。

最後に、あなたに伝えたいこと

「お金がないから諦める」という言葉は、本人が思っているほど最終的な結論ではない。それは多くの場合、疲れた心が出した「一時停止のサイン」だ。

情報を持っている大人が、その場に一人いるだけで、結論は変わる。私はその「一人」であり続けたいと思ってこの仕事をしている。

もしあなた自身が、または子どもが「経済的な理由で受験を諦めようとしている」という状況にあるなら、一度だけ立ち止まってほしい。制度を調べる前に諦めるのは、まだ早い。

スカイ予備校では、成績の相談だけでなく、こうした経済的な事情を抱えた生徒・保護者からの相談も日常的に受けている。「うちの場合はどうなんだろう」という疑問があれば、気軽に問い合わせてほしい。答えを持っているかどうかよりも、一緒に考える場を作ることが、私たちの役割だと思っているから。

【五十嵐より追記】
(この記事を読んで思い出したこと、追加で伝えたいことをここに記入してください)
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