「将来の夢は何?」と聞かれて、答えられない子どもが増えています。それは弱さではなく、時代の変化のサインかもしれません。
私(五十嵐)が教育現場に立って30年。最近、生徒たちの進路相談で強く感じることがあります。昔は「公務員になりたい」「大企業に入りたい」という声がよく聞かれました。でも今は違います。「YouTuberになりたい」「フリーランスで働きたい」「起業してみたい」という声が増える一方で、「特に夢がない」という生徒も多くなっています。
ある調査では、中高生のなりたい職業ランキングの上位に「動画クリエイター」「ITエンジニア」「ゲーム開発者」といった職種が並び、かつて不動の人気を誇った「銀行員」「商社マン」は姿を消しました。こうした変化を目の当たりにするたびに、時代は確実に動いていると実感します。
今回のコラムでは、Z世代と呼ばれる今の中高生たちが描く「将来像」を多角的に分析しながら、保護者の皆さまと受験生の皆さんに向けて、これからの時代に必要な進路選択の考え方を一緒に考えていきたいと思います。
「安定した会社員」という夢が消えていく理由
なぜ子どもたちの職業観は変わったのでしょうか。それは、彼らが生きているのが「答えのない時代」だからです。終身雇用の崩壊、AIの急速な発展、リモートワークの普及…。私たち大人が「安定」だと思っていた働き方が、実はそれほど安定ではないことを、子どもたちは敏感に感じ取っています。
たとえば、かつて「安泰」と言われた大手メーカーが大規模なリストラを行ったニュースは、保護者世代にも衝撃を与えました。しかし、当の中高生たちは意外と冷静です。なぜなら、彼らは物心がついたときからスマートフォンを手にし、世界中の情報にリアルタイムでアクセスしてきた世代だからです。「一つの会社がずっと安泰であるはずがない」ということを、ニュースやSNSを通じて肌感覚で理解しています。
さらに、コロナ禍の経験も大きな影響を与えました。学校が突然オンラインに切り替わり、保護者がリモートワークで自宅から仕事をする姿を見て、「働くということは、オフィスに通うことだけではない」と自然に学びました。この原体験が、柔軟な働き方への志向を加速させているのです。
だからこそ、今の中高生には「一つの会社で一生働く」という発想よりも、「どんな環境でも生き抜ける力」を身につけてほしいのです。それは決して安定を否定することではなく、「本当の安定とは、自分自身の中にある」ということに気づいてほしいという意味です。
仕事選びの新しい基準:「やりがい」「収入」「時間」のバランス
最近の生徒たちと進路について話していると、面白い傾向が見えてきます。彼らは仕事を選ぶとき、「やりがい」「収入」「時間」の3つをバランスよく考えているのです。
昔なら「とにかく給料が高い仕事を」と言われがちでしたが、今の子どもたちは違います。「お金は大切だけど、プライベートの時間も欲しい」「収入は少なくても、好きなことで生きていきたい」といった声をよく聞きます。これは決してわがままではありません。むしろ、人生全体を見通した賢い考え方だと私は思います。
具体的に、彼らが仕事選びで重視するポイントを整理すると、以下のようになります。
- やりがい:自分の好きなことや得意なことを活かせるか。社会に貢献できている実感があるか。
- 収入:生活に困らない程度の安定した収入が得られるか。将来的にスキルアップで収入増が見込めるか。
- 時間:家族や友人との時間、趣味や自己成長のための時間が確保できるか。
注目すべきは、この3つに優先順位をつけるのではなく、「バランス」を重視している点です。一つの要素だけを追い求めるのではなく、三角形のように全体の調和を意識する。これは、人生100年時代を生きる知恵と言えるのではないでしょうか。
保護者の皆さまにお伝えしたいのは、お子さまがこうした複合的な視点で将来を考えているとき、「甘い」と否定するのではなく、一緒にその理想のバランスを探ってあげてほしいということです。対話を通じて、現実と理想をすり合わせていくプロセスこそが、真の進路指導だと私は考えています。
AIに代替されない職業の共通点
「AIに仕事を奪われるのが心配」という相談もよく受けます。確かに、多くの仕事がAIに代替される可能性があります。オックスフォード大学の研究でも、今後10~20年で現在の仕事の約47%がAIに置き換えられる可能性が指摘されました。これは決して遠い未来の話ではありません。
しかし、AIが苦手とする分野もあります。それは以下の3つです。
- 人の心に寄り添う仕事:看護師、カウンセラー、ソーシャルワーカーなど、相手の感情を読み取り、共感し、支える仕事。
- 創造性が求められる仕事:デザイナー、アーティスト、作家、建築家など、ゼロから新しい価値を生み出す仕事。
- 複雑な判断が必要な仕事:研究者、経営者、職人など、データだけでは割り切れない微妙な判断や経験知が求められる仕事。
これらに共通するのは、「人間らしさ」そのものが付加価値になっているという点です。AIはデータを分析することは得意ですが、目の前の人の表情から悲しみを感じ取ったり、まだ世の中に存在しないものを想像したりすることは苦手です。
ここで大切なのは、「何の仕事に就くか」よりも「どんな人間になるか」です。コミュニケーション力、創造力、問題解決力、そして何より「人を思いやる心」を育てることが、どんな時代でも通用する最強のスキルだと私は確信しています。
スカイ予備校では、単に受験テクニックを教えるだけでなく、小論文や面接対策を通じて「自分の考えを持ち、それを相手に伝える力」を徹底的に鍛えています。この力こそが、AI時代を生き抜く土台になるのです。
Z世代が「出世」より「ウェルビーイング」を選ぶ理由
今の中高生を含むZ世代は、「出世して偉くなりたい」よりも「自分らしく幸せに生きたい」を重視します。これを「向上心がない」と批判する大人もいますが、私は違うと思います。
彼らは「真の豊かさとは何か」を深く考えているのです。肩書きや地位よりも、心の健康、人間関係、自己実現を大切にする。これは素晴らしい価値観の進化だと思います。
ウェルビーイング(心身ともに健康で幸せな状態)を追求することは、決して甘えではありません。むしろ、持続可能な人生を送るための知恵なのです。
実際、世界的に見ても幸福度の高い国々では、「長時間労働=美徳」という価値観は薄れています。北欧諸国では、ワークライフバランスを重視した働き方が生産性の向上にもつながっていることが研究で示されています。Z世代の子どもたちは、こうしたグローバルな潮流を自然と吸収しているのです。
保護者の皆さまの中には、「もっとハングリーになってほしい」と感じる方もいらっしゃるかもしれません。しかし、お子さまが「自分らしさ」を大切にしているということは、自分自身と深く向き合っている証拠でもあります。その姿勢を認めた上で、「では、自分らしく生きるために、今何を学ぶべきか」という建設的な対話に発展させていただけたらと思います。
「副業時代」に備える進路の考え方
もう一つ、今の時代に無視できないのが「副業・複業」という働き方です。政府も副業を推進する方針を打ち出し、実際に本業と副業を両立させる社会人が増えています。
これは中高生の進路選択にも影響を与えています。「一つの職業だけで人生を完結させる」のではなく、複数のスキルや収入源を持つことで、リスクを分散しながら自分らしいキャリアを築くという考え方です。
たとえば、「本業は看護師、副業でイラストレーター」「平日はプログラマー、休日は農業体験の講師」など、かつては考えられなかった組み合わせが現実になっています。大切なのは、一つの専門性を深めつつも、別の分野にも視野を広げる柔軟性です。
受験生の皆さんには、志望校選びの際にも「この大学・学部で学ぶことが、将来どんな可能性を広げてくれるか」という視点を持ってほしいと思います。
「夢が見つからない」君たちへのエール
最後に、「将来の夢が見つからない」と悩んでいる中高生の皆さんに伝えたいことがあります。
夢は「見つける」ものではなく「育てる」ものです。今すぐ明確な目標がなくても大丈夫。大切なのは、目の前のことに一生懸命取り組み、いろいろなことに興味を持ち続けることです。
私が30年間見てきた中で、最も輝いている卒業生たちに共通するのは、「人の役に立ちたい」という気持ちです。その想いの芽は、最初はとても小さなものでした。文化祭でクラスのために裏方を頑張った経験、ボランティア活動で「ありがとう」と言われた喜び、友人の悩みに真剣に耳を傾けた夜。そうした一つひとつの経験が積み重なり、やがて「自分はこういう形で社会に貢献したい」という明確なビジョンに育っていくのです。
どんな形でもいい、誰かの笑顔のために何かできることを考えてみてください。その想いが、きっと君たちを素晴らしい未来に導いてくれるはずです。
また、保護者の皆さまにもお願いがあります。お子さまが「夢がない」と言ったとき、焦らないでください。夢を持たないことは、恥ずかしいことでも遅れていることでもありません。むしろ、安易に一つの答えに飛びつかず、じっくり自分と向き合おうとしている姿勢を温かく見守ってあげてほしいのです。スカイ予備校では、そうした生徒一人ひとりの「まだ見えない夢」を一緒に育てるサポートを大切にしています。
時代が変わっても変わらない大切なこと
なりたい職業ランキングは毎年変わります。10年後には、今は存在しない職業が上位に並んでいるかもしれません。しかし、時代は変わっても、人を思いやる心、学び続ける姿勢、そして諦めない気持ちがあれば、必ず道は開けます。
私はこの30年間、何千人もの生徒たちの成長を見てきました。「あの時は全然夢がなかったのに、今はこんなに素晴らしい仕事をしている」という卒業生がたくさんいます。彼らに共通していたのは、目の前のことに全力で取り組む誠実さと、周囲の人を大切にする温かさでした。
受験はゴールではなく、人生の通過点です。しかし、その通過点で全力を出し切った経験は、必ず将来の自分を支えてくれます。スカイ予備校は、受験を通じて「生き抜く力」を育てる場でありたいと思っています。
君たちの未来を、私は心から応援しています。一緒に頑張りましょう。
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