小論文の書き出しを解説!読まれる冒頭の作り方
小論文の書き出しは、採点者が最初に目にする部分であり、答案全体の印象を決定づける重要な要素です。優れた書き出しは、採点者の関心を引き、「この答案は期待できそうだ」という好印象を与えます。一方、曖昧で要領を得ない書き出しは、それだけで評価を下げる原因となります。本記事では、効果的な書き出しの5つの型と、それぞれの具体例、さらに避けるべき失敗パターンを詳しく解説します。
1. 書き出しの役割と採点者が見ているポイント
小論文の書き出し(序論)には、明確な役割があります。それは「問題提起」「自分の立場の表明」「論点の提示」という3つの要素を簡潔に示すことです。採点者は冒頭の数行を読むだけで、受験生が問題の本質を理解しているか、論理的に思考できるかを判断します。
書き出しで採点者が確認する3つのポイント
①設問の趣旨を正確に理解しているか
採点者が最も重視するのは、受験生が「何を問われているのか」を正確に把握しているかです。問いとずれた書き出しは、その時点で大幅な減点対象となります。例えば「少子化の原因について論じよ」という設問に対して、「少子化は深刻な問題である」という当たり前の事実だけを述べる書き出しでは、問題の理解が浅いと判断されます。正確には「少子化の原因は複合的であり、経済的要因と社会構造の変化という二つの側面から分析する必要がある」というように、問いに直接答える姿勢を示すべきです。
②明確な立場・視点を持っているか
優れた書き出しは、書き手の立場を明確に示します。「賛成か反対か」「どのような視点から論じるのか」が曖昧な答案は、論旨が不明瞭になりがちです。「私は〜という立場から、〜と考える」という明確な意思表示が、説得力のある論文の出発点となります。ただし、立場の表明は断定的すぎても問題です。「絶対に〜である」「100%間違いない」といった極端な表現は避け、「〜という観点から考えれば、〜が妥当であると判断する」というように、論理的な余地を残した表現が適切です。
③論理的な展開の予告ができているか
書き出しには、これから述べる内容の「地図」を示す役割もあります。「本稿では、まず〜を検討し、次に〜を分析し、最終的に〜という結論を導く」というように、論の展開を予告することで、採点者は全体の構成を理解しやすくなります。ただし、大学入試の小論文では文字数が限られているため、詳細な予告は不要です。「〜という二つの観点から考察する」程度の簡潔な予告で十分です。
書き出しの理想的な長さ
書き出し(序論)は、全体の10〜15%程度が適切です。800字の小論文なら80〜120字、1200字なら120〜180字が目安となります。長すぎる序論は本論を圧迫し、短すぎる序論は問題提起が不十分になります。この長さの中で、問題の所在、自分の立場、論点の提示を簡潔にまとめることが求められます。
重要なのは、書き出しだけで完結させないことです。序論はあくまで導入であり、詳細な論証は本論で行います。書き出しで全てを語ろうとすると、冗長で焦点がぼやけた印象を与えてしまいます。「問題の核心を一言で示し、これから詳しく論じることを予告する」という姿勢が理想的です。
2. 【型①】問題提起型:社会的課題から入る書き出し
最も基本的で汎用性が高いのが、社会的な問題や現状認識から始める問題提起型です。この型は、テーマに関する客観的事実やデータを提示し、「なぜこれが問題なのか」を明確にすることで、論の必然性を示します。
問題提起型の基本構造
- 現状の提示 – 統計データや社会的事実を示す
- 問題の指摘 – なぜそれが問題なのかを明確にする
- 論点の提示 – この小論文で何を論じるのかを示す
【例文①】環境問題をテーマにした問題提起型
日本の温室効果ガス排出量は、2020年時点で11.5億トンに達し、2013年比では18.4%削減されたものの、2030年の削減目標46%にはまだ大きな隔たりがある。この現状は、単なる環境問題にとどまらず、将来世代への責任という倫理的課題でもある。本稿では、個人の行動変容と政策的誘導という二つの側面から、実効性のある脱炭素社会への道筋を考察する。
この例では、具体的な数値データで現状を示し、それがなぜ問題なのか(将来世代への責任)を明確にした上で、論じる視点(個人と政策の二側面)を予告しています。採点者はこの書き出しを読むだけで、受験生が問題を深く理解し、構造的に考察しようとしていることを理解できます。
【例文②】教育格差をテーマにした問題提起型
文部科学省の全国学力調査によれば、世帯年収と子どもの学力には明確な相関関係があり、年収400万円未満の世帯と1200万円以上の世帯では、正答率に約20ポイントの差が生じている。この教育格差は、機会の不平等を固定化し、社会の分断を深刻化させる要因となる。教育における平等の実現には、経済的支援と学習環境整備という両輪のアプローチが不可欠である。
問題提起型を使う際の注意点
【注意①】データは正確に、出典を明示する
「多くの人が〜」「最近〜が増えている」といった曖昧な表現は避け、可能な限り具体的な数値を示しましょう。ただし、試験中に細かい数字を正確に覚えている必要はありません。「約15%」「2020年時点で」といった程度の精度で十分です。重要なのは、根拠に基づいて論じる姿勢を示すことです。
【注意②】問題の所在を明確にする
現状を述べるだけでなく、「なぜそれが問題なのか」「誰にとって問題なのか」を明示することが重要です。「少子化が進んでいる」という事実だけでは問題提起として不十分です。「少子化により労働力人口が減少し、経済成長と社会保障制度の維持が困難になる」というように、問題の本質を指摘しましょう。
3. 【型②】定義明確化型:概念を定義してから論じる書き出し
抽象的なテーマや多義的な概念を扱う場合には、まず用語を定義してから論を展開する定義明確化型が効果的です。この型は、「何について論じているのか」を明確にすることで、議論の前提を共有し、論点のずれを防ぎます。
定義明確化型が有効なテーマ
- 「豊かさ」「幸福」「自由」「平等」など抽象的概念
- 「グローバル化」「多様性」「持続可能性」など多義的な用語
- 「AIと人間」「伝統と革新」など対立する概念の関係
【例文①】「豊かさ」をテーマにした定義明確化型
「豊かさ」とは何か。従来、それは物質的充足度、すなわちGDPや個人所得によって測られてきた。しかし、経済的豊かさと生活満足度が必ずしも比例しないことは、幸福度調査が示すとおりである。真の豊かさとは、物質的基盤の上に、人間関係の充実や自己実現の機会という非物質的要素を含む、多層的な概念として捉えるべきである。本稿では、この視点から現代日本社会の豊かさを再考する。
この例では、従来の定義を示した上で、それを批判的に検討し、自分なりの定義を提示しています。このプロセスにより、議論の土台が明確になり、以降の論証が説得力を持ちます。
【例文②】「グローバル化」をテーマにした定義明確化型
グローバル化とは、単なる経済活動の国際化にとどまらず、情報、文化、価値観が国境を越えて流動する現象を指す。この過程は、一方で市場の拡大と技術革新を促進するが、他方で地域文化の均質化や格差の拡大という負の側面も持つ。グローバル化の功罪を論じるには、経済的利益と文化的多様性という相反する価値をどう調和させるかという視点が不可欠である。
定義明確化型を使う際のコツ
【コツ①】辞書的定義で終わらせない
単に言葉の意味を説明するだけでは不十分です。「一般的には〜と理解されているが、本稿では〜という観点から捉え直す」というように、自分なりの解釈や視点を加えることで、思考の深さを示せます。
【コツ②】対立する定義を示す
「Aという立場では〜と定義されるが、Bという立場では〜と捉えられる」というように、複数の定義や解釈を示すことで、多角的な理解をアピールできます。その上で、「本稿では〜という立場を取る」と自分の立場を明確にしましょう。
4. 【型③】対比提示型:二つの視点を対置する書き出し
賛否が分かれるテーマや、相反する価値が衝突する問題では、二つの立場や視点を対比させる対比提示型が効果的です。この型は、問題の複雑性を理解していることを示すと同時に、論点を明確化する効果があります。
対比提示型の基本構造
- A説の提示 – 一方の立場・意見を示す
- B説の提示 – 対立する立場・意見を示す
- 自分の立場 – どちらを支持するか、あるいは第三の視点を示す
【例文①】AI技術をテーマにした対比提示型
AI技術の発展に対しては、二つの対照的な見解が存在する。一方では、AIが人間を単純労働から解放し、創造的活動に専念できる社会を実現するという楽観論がある。他方では、大量失業と格差拡大をもたらす脅威と捉える悲観論も根強い。この対立は、技術それ自体の性質ではなく、それを社会がどう活用するかという選択の問題である。私は、適切な規制と教育投資によって、AIの恩恵を最大化しリスクを最小化できると考える。
この例では、楽観論と悲観論を対置した上で、「技術か社会か」という論点の軸を明確にし、自分の立場(規制と教育による調整可能性)を示しています。
【例文②】安楽死をテーマにした対比提示型
安楽死の是非をめぐっては、「生命の自己決定権」を重視する立場と、「生命の絶対的尊厳」を掲げる立場が鋭く対立している。前者は、耐え難い苦痛からの解放を求める患者の意思を最大限尊重すべきと主張する。後者は、生命は何よりも優先されるべき価値であり、安楽死は殺人を正当化する危険な思想だと批判する。この問題に簡単な解はないが、私は緩和ケアの充実を前提とした上で、極めて限定的な条件下での選択肢として容認すべきと考える。
対比提示型を効果的に使うポイント
【ポイント①】両論を公平に扱う
自分が支持しない立場についても、その妥当性や論拠を正当に評価しましょう。一方を過度に単純化したり、わざと弱い論拠だけを示したりする「わら人形論法」は避けるべきです。公平な比較検討こそが、論の説得力を高めます。
【ポイント②】対立の本質を見抜く
表面的な賛否の対立ではなく、「何が対立の根本原因なのか」を指摘できると、より深い考察になります。例えば「安楽死」の議論は、単なる賛否ではなく、「自己決定権と生命の尊厳、どちらを優先するか」という価値観の対立です。この構造を明示することで、議論の質が高まります。
5. 【型④】疑問提起型:問いから始める書き出し
読み手の関心を引きつける効果的な方法の一つが、疑問文から始める疑問提起型です。この型は、問題の本質を問いの形で示すことで、読み手を思考のプロセスに引き込む効果があります。
効果的な疑問文の条件
ただし、どんな疑問文でも良いわけではありません。効果的な疑問文は、①本質的な問い ②答えが自明でない問い ③論文全体で答える問いという3つの条件を満たす必要があります。「環境問題は重要か?」という問いは自明すぎて意味がありませんが、「環境保護と経済成長は本当に両立不可能なのか?」という問いは、論じる価値のある本質的な問いです。
【例文①】情報社会をテーマにした疑問提起型
インターネットは私たちを自由にしたのか、それとも新たな監視社会を生み出したのか。SNSの普及により、誰もが自由に情報を発信できるようになった一方で、個人の行動履歴は詳細に記録され、企業や政府に利用される時代となった。この矛盾は、技術が本質的に持つ両義性を示している。情報技術がもたらす自由と監視という二つの側面を理解することが、デジタル社会を生きる私たちに求められている。
この例では、二者択一の問いから始め、その問いの背景にある矛盾を示し、論じるべき論点を明確にしています。
【例文②】教育をテーマにした疑問提起型
なぜ日本の子どもたちは、世界トップレベルの学力を持ちながら、学習意欲が低いのか。PISA調査は、日本の生徒が高い学力を示す一方で、「勉強が楽しい」と答える割合が参加国中最低水準であるという矛盾を明らかにした。この現象は、知識の詰め込みを重視し、学ぶ楽しさや探究心の育成を軽視してきた日本の教育システムの構造的問題を浮き彫りにしている。本稿では、学力と学習意欲を両立させる教育改革の方向性を探る。
疑問提起型の注意点
【注意①】疑問を投げっぱなしにしない
疑問文で始めたら、必ず論文の中でその問いに答える必要があります。問いを提起するだけで答えを示さない答案は、未完成と評価されます。書き出しの疑問文は、「これから答える問い」の予告であることを忘れないでください。
【注意②】複数の疑問文を連続させない
「〜なのか? 〜なのだろうか? では〜はどうなのか?」と疑問文を連発すると、焦点が定まらず散漫な印象を与えます。疑問文は一つに絞り、その後は平叙文で論を展開しましょう。
6. 避けるべき書き出しの失敗パターン5選
効果的な書き出しの型を学んだところで、次はやってはいけない書き出しを確認しましょう。以下の失敗パターンは、多くの受験生が陥りがちなものです。
【失敗①】「私は〜と思います」から始める
❌ 悪い例:
私は少子化対策が必要だと思います。なぜなら、子どもが減ると将来困ると思うからです。
✅ 改善例:
日本の出生率は1.26(2022年)まで低下し、人口減少が加速している。この少子化は、労働力不足と社会保障制度の持続可能性という二つの深刻な問題を引き起こす。したがって、実効性のある少子化対策の構築は喫緊の課題である。
問題点: 「思います」という主観的表現は、論文としての客観性を欠きます。また、「困る」という曖昧な表現では、問題の本質が伝わりません。改善例では、データで現状を示し、具体的な問題を明示しています。
【失敗②】辞書的定義の羅列
❌ 悪い例:
少子化とは、出生率が低下し、子どもの数が減少する現象のことである。日本では1970年代から少子化が始まった。
✅ 改善例:
日本の少子化は、単なる出生数の減少にとどまらず、社会構造全体に影響を及ぼす構造的問題である。その背景には、経済的不安、働き方の硬直性、育児支援の不足という複合的要因が存在する。
問題点: 誰でも知っている事実や定義を述べるだけでは、思考の深さを示せません。改善例では、問題の本質と背景要因に踏み込んでいます。
【失敗③】感情的・感想的な書き出し
❌ 悪い例:
環境問題は本当に深刻で、このままでは地球が大変なことになってしまう。私たちは今すぐ行動しなければならないと強く感じる。
✅ 改善例:
地球の平均気温は産業革命前と比べて1.1度上昇し、IPCCは2030年までに1.5度の上昇に達すると予測している。この気候変動は、異常気象の頻発や生態系の破壊という具体的な被害をもたらしており、科学的根拠に基づいた対策が急務である。
問題点: 「大変」「強く感じる」といった感情的表現は、論文には不適切です。改善例では、科学的データと具体的影響を示しています。
【失敗④】抽象的すぎる書き出し
❌ 悪い例:
現代社会には様々な問題がある。その中でも教育は特に重要である。教育について考えることは意義深い。
✅ 改善例:
日本の教育における最大の課題は、世帯収入による学力格差の固定化である。文部科学省の調査では、年収400万円未満と1200万円以上の世帯で、子どもの正答率に約20ポイントの差が生じている。この格差は、機会の平等という民主主義の根幹を揺るがす問題である。
問題点: 「様々な問題」「特に重要」「意義深い」といった抽象的表現では、何を論じるのか不明確です。改善例では、具体的な問題と数値を示しています。
【失敗⑤】結論を先に全て述べる
❌ 悪い例:
AI技術は規制すべきである。なぜなら危険だからだ。具体的には、失業が増え、プライバシーが侵害され、人間の尊厳が失われる。だから厳しく規制する必要がある。
✅ 改善例:
AI技術の急速な発展は、社会に大きな利益をもたらす一方で、雇用、プライバシー、倫理という三つの側面で深刻な懸念を生じさせている。この技術をいかに活用し、同時にリスクを管理するかは、現代社会の重要課題である。本稿では、規制の必要性とその具体的方向性について考察する。
問題点: 書き出しで結論まで述べてしまうと、本論で論じることがなくなります。改善例では、問題の所在と論点を示すにとどめ、詳細な論証は本論に委ねています。
まとめ:書き出しで合格への第一歩を踏み出す
小論文の書き出しは、採点者との最初の出会いであり、答案全体の印象を左右する重要な部分です。本記事で紹介した5つの型——問題提起型、定義明確化型、対比提示型、疑問提起型、そして避けるべき失敗パターン——を理解し、使いこなすことで、読まれる冒頭を作ることができます。
効果的な書き出しに共通するのは、①問題の核心を捉えている ②明確な立場がある ③具体的で論理的という3つの特徴です。曖昧な表現や感情的な記述を避け、データや論理に基づいた客観的な書き出しを心がけましょう。
また、書き出しは何度も書き直すことで上達します。最初から完璧な書き出しを書ける人はいません。「書く→添削を受ける→改善する」というサイクルを繰り返すことで、徐々に洗練された書き出しが書けるようになります。
書き出しで採点者の心を掴み、「この答案は期待できる」と思わせることができれば、合格への大きな一歩を踏み出したことになります。今日から、意識的に書き出しを磨く練習を始めましょう。


