小論文での引用の仕方|正しいルールとマナーを例文で解説

小論文での引用の仕方

小論文において、他者の意見やデータを引用することは、自分の主張に説得力を与える重要な技術です。しかし、引用のルールを知らずに使うと、剽窃(盗用)とみなされ、大幅な減点や不合格の原因となります。本記事では、大学入試の小論文で必要な引用の基本ルール、直接引用と間接引用の使い分け、出典の正しい書き方、そして剽窃を避けるための注意点を、具体例とともに詳しく解説します。

1. 引用とは何か:なぜ小論文で引用が必要なのか

引用とは、他者の文章や意見、データを自分の論文の中で示すことです。小論文における引用には、明確な目的と意義があります。単なる文字数稼ぎや、知識のひけらかしではなく、論証を強化するための戦略的な手段なのです。

基礎を確認したいときは、小論文の基本構成を押さえよう を読んでみよう

小論文で引用が果たす4つの役割

①主張の根拠を示す
自分の意見だけでなく、専門家の見解やデータを示すことで、主張の客観性と信頼性が高まります。「私はこう思う」だけでは説得力に欠けますが、「経済学者ピケティは『21世紀の資本』で〜と指摘している」と引用することで、論に重みが加わります。

②反対意見を提示する
自分と異なる立場の意見を引用し、それに対して反論することで、多角的な検討を行ったことを示せます。一方的な主張よりも、反対意見を理解した上での結論の方が、はるかに説得力があります。

③議論の出発点を示す
課題文を引用することで、「何について論じているのか」を明確にできます。特に課題文読解型の小論文では、筆者の主張を正確に引用することが、議論の前提となります。

④自分の独創性を際立たせる
既存の研究や意見を引用し、「しかし、この見解には〜という限界がある」と批判的に検討することで、自分の独自の視点が明確になります。引用は、自分の考えを際立たせるための対比の役割も果たすのです。

大学入試における引用の特殊性

大学入試の小論文は、学術論文とは異なる制約があります。試験時間が限られているため、詳細な参考文献リストを作成する必要はありません。また、記憶に頼って書くため、引用が正確でなくても、「〜によれば」「〜が指摘するように」という引用の形式を守っていれば問題ありません。重要なのは、「これは他者の意見である」ことを明示する姿勢です。

大学入試の小論文の場合は、引用するのは課題文や与えられた資料に限定する方が得策です。なぜならば、うろ覚えの内容を言いようとして入れる事は、その根拠を大学が全て把握してるわけではないので、単なる思いつきと取られる可能性もあります。

通常の論文の場合は、必ず他社の論文や文献などを参考にし、自分の研究内容の独自性をしっかりと把握し、それをデータに基づき立証することが必要です。しかし、大学入試の小論文は論文と言う名前が付いているものの、そこまで厳密に外部のデータなどを必要としません。

生半かな知識で論文を書かないように気をつけましょう。

引用してはいけない場合

すべての情報に引用が必要なわけではありません。一般常識や周知の事実には引用は不要です。例えば「日本は少子高齢化が進んでいる」という事実に、いちいち出典を示す必要はありません。引用が必要なのは、①特定の人物の独自の見解 ②統計データや調査結果 ③専門的な知識や理論 ④課題文の内容などです。

2. 直接引用と間接引用:使い分けの原則

引用には、「直接引用」と「間接引用」という2つの方法があります。それぞれに適した使用場面があり、使い分けを誤ると、文章の流れが悪くなったり、剽窃と疑われたりします。

直接引用:原文をそのまま引く方法

直接引用は、原文の表現をそのまま「 」(かぎ括弧)で囲んで示す方法です。筆者の言葉を一字一句正確に再現する必要があります。勝手に言い換えたり、省略したりしてはいけません。

直接引用が適している3つの場合

  1. 表現そのものが重要な場合 – 著名な言葉や印象的な表現を示す時
  2. 誤解を避けたい場合 – 微妙なニュアンスを正確に伝える必要がある時
  3. 批判の対象とする場合 – 特定の主張を批判的に検討する時

【直接引用の例文】

課題文からの直接引用:
筆者は「環境問題の解決には、個人の努力だけでなく、企業の生産システムそのものを変革する必要がある」と主張している。この指摘は、問題の構造的側面を捉えた重要な視点である。

専門家の見解の直接引用:
経済学者ピケティは『21世紀の資本』において、「資本収益率が経済成長率を上回る限り、格差は拡大し続ける」と指摘している。この理論が示すように、市場メカニズムに任せるだけでは格差は是正されない。

直接引用の注意点

①引用符を正しく使う
日本語の小論文では「 」(かぎ括弧)を使います。『 』(二重かぎ括弧)は、書籍名や引用の中の引用に使います。引用符を閉じ忘れると、どこまでが引用か不明確になります。

②長すぎる引用は避ける
直接引用は、原則として1〜2文、50字以内が適切です。長文をそのまま引用すると、自分の文章の割合が減り、「引用に頼りすぎている」という印象を与えます。長い場合は、要点だけを抜き出すか、間接引用に切り替えましょう。

③引用だけで終わらせない
引用した後は、必ず自分の解釈や評価を加えます。「〜と述べている」で終わらせず、「この主張は〜という点で妥当である」「しかし〜という限界もある」と続けることで、引用が生きてきます。

間接引用:内容を要約して示す方法

間接引用は、原文の内容を自分の言葉で要約して示す方法です。引用符は使わず、「〜によれば」「〜が指摘するように」「〜という見解がある」といった表現で、他者の意見であることを示します。

間接引用が適している3つの場合

  1. 内容が重要で表現は重要でない場合 – データや事実を示す時
  2. 複数の情報をまとめる場合 – 複数の出典から共通する内容を抽出する時
  3. 文章の流れを優先する場合 – 自然な文章の流れを保ちたい時

【間接引用の例文】

データの間接引用:
文部科学省の調査によれば、世帯年収と子どもの学力には明確な相関関係があり、低所得世帯の子どもほど学力が低い傾向にある。この教育格差は、機会の不平等を固定化する要因となっている。

理論の間接引用:
心理学者マズローが提唱した欲求階層説では、人間の欲求は生理的欲求から自己実現欲求まで段階的に発展するとされる。この理論を教育に適用すれば、基本的な生活環境が整わない子どもは、学習意欲を持ちにくいことが説明できる。

間接引用の注意点

①元の意味を変えない
自分の言葉で言い換える際、原文の意味を歪めてはいけません。特に、筆者の主張と正反対の意味にしたり、ニュアンスを大きく変えたりすることは、学問的誠実性に反します。

②出典を明示する
引用符がなくても、「〜によれば」「〜の研究では」など、誰の意見かを明示する必要があります。出典を示さずに他者の意見を自分の意見のように書くと、剽窃とみなされます。

3. 出典の正しい書き方:大学での実践的方法

学術論文では、出典を脚注や参考文献リストで詳細に示す必要がありますが、大学入試の小論文では、本文中に簡潔に示すだけで十分です。ただし、その書き方にもルールがあります。

出典表示の基本パターン

大学入試の小論文で使える出典表示には、以下のようなパターンがあります。

【パターン①】人名+著作名

経済学者トマ・ピケティは『21世紀の資本』において、資本収益率が経済成長率を上回る限り格差は拡大し続けると指摘している。

社会学者ロバート・パットナムは『孤独なボウリング』で、アメリカにおける社会関係資本の衰退を論じている。

【パターン②】組織名+調査名

文部科学省の全国学力調査によれば、世帯年収と学力には明確な相関関係がある。

厚生労働省の人口動態統計では、2022年の出生数は77万人にまで減少したことが報告されている。

OECD(経済協力開発機構)のPISA調査は、日本の生徒が高い学力を持つ一方で、学習意欲が低いという矛盾を明らかにした。

【パターン③】「〜によれば」構文

ある研究によれば、睡眠時間が6時間未満の生徒は、7時間以上の生徒と比べて学力が低い傾向にある。

複数の調査が示すように、若者の政治参加率は年々低下している。

注意: 「ある研究」「複数の調査」は、具体的な出典を覚えていない場合の便法です。可能な限り、具体的な出典名を示す方が説得力があります。

【パターン④】課題文からの引用

筆者は、環境問題の解決には企業の生産システムの変革が不可欠だと主張している。

本文では、個人の努力だけでは環境問題は解決しないと論じられている。

課題文によれば、日本の環境政策は企業優先で個人に負担を強いる構造になっているという。

出典を示す際の注意点

①著者名は正確に
「ピケティ」を「ピケティー」と書くなど、細かい表記ミスも減点対象となる可能性があります。ただし、試験中に正確に覚えていない場合は、「フランスの経済学者は」「ある研究者によれば」という書き方でも構いません。不正確な情報を断定的に書くよりは、曖昧さを認める方が誠実です。

②書籍名は『 』で囲む
『21世紀の資本』『孤独なボウリング』のように、二重かぎ括弧で書籍名を示します。論文タイトルや記事タイトルは「 」(かぎ括弧)を使います。

③年号は必須ではない
学術論文では「ピケティ(2014)によれば」のように年号を示しますが、大学入試の小論文では省略可能です。ただし、「2022年の調査では」のように、データの新しさを強調したい場合は年号を入れると効果的です。

4. 剽窃(盗用)を避けるための5つのルール

剽窃とは、他者の文章や意見を、自分のものであるかのように示すことです。これは学問的不正行為であり、大学入試では厳しく評価されます。意図的でなくても、ルールを知らずに剽窃してしまうケースがあるため、注意が必要です。

ルール①:他者の意見は必ず出典を示す

どんなに要約しても、言い換えても、元のアイデアが他者のものであれば、出典を示す必要があります。「自分の言葉で書いたから引用ではない」という誤解がありますが、これは間違いです。間接引用でも、出典の明示は必須です。

❌ 剽窃の例:
資本収益率が経済成長率を上回る限り、格差は拡大し続ける。これは現代社会の構造的問題である。(出典なし)

✅ 正しい例:
経済学者ピケティによれば、資本収益率が経済成長率を上回る限り、格差は拡大し続けるという。これは現代社会の構造的問題である。

ルール②:課題文をコピー&ペーストしない

課題文読解型の小論文で、課題文の一部をそのまま写して自分の意見のように書くことは、最も多い剽窃のパターンです。課題文の内容に言及する際は、必ず「筆者は〜と述べている」「本文によれば」などの表現を使います。

❌ 剽窃の例:
環境問題の解決には、個人の努力だけでなく、企業の生産システムそのものを変革する必要がある。私もこの点に同意する。

✅ 正しい例:
筆者は「環境問題の解決には、個人の努力だけでなく、企業の生産システムそのものを変革する必要がある」と主張している。私もこの点に同意する。

ルール③:複数の出典を組み合わせる場合も明示する

複数の文献から情報を集めて一つの段落にまとめる場合、それぞれの出典を区別して示す必要があります。「AによればXであり、BによればYである」というように、誰が何を言っているかを明確にします。

✅ 正しい例:
教育格差の原因については、複数の見解がある。経済学者は経済的要因を重視し、世帯収入の差が教育機会の格差を生むと指摘する。一方、社会学者は文化資本の継承を重視し、家庭の文化的環境が子どもの学力に影響すると論じる。これらは相互に関連しており、経済的・文化的両面からのアプローチが必要である。

ルール④:一般常識と専門的知識を区別する

一般に知られている事実(例:「日本は少子高齢化が進んでいる」)には出典は不要ですが、専門的な理論や統計データには出典が必要です。その境界は曖昧ですが、「自分が最近知った情報」「特定の研究から得た知識」は、出典を示すべきです。

ルール⑤:自分の解釈・意見を明確に区別する

引用と自分の意見が混在すると、どこまでが引用でどこからが自分の考えか不明確になります。引用→自分の解釈・評価という順序を明確にしましょう。

✅ 正しい例:
ピケティは、資本収益率が経済成長率を上回る限り格差は拡大すると指摘している(引用)。この理論が示唆するのは、市場メカニズムに任せるだけでは格差は是正されないということだ(自分の解釈)。したがって、累進課税の強化や再分配政策が不可欠である(自分の意見)。

「この理論が示唆するのは」「したがって」などの表現で、自分の解釈・意見であることを明示しています。

5. 課題文からの引用:実践的テクニック

課題文読解型の小論文では、課題文からの引用が中心となります。ここでは、課題文を効果的に引用するための実践的テクニックを紹介します。

テクニック①:要約と直接引用を組み合わせる

課題文全体を要約した後、特に重要な部分だけを直接引用することで、効率的かつ効果的に論を展開できます。

第1段落(要約):
筆者は、日本の教育が知識の詰め込みに偏り、思考力や創造性の育成を軽視していると批判している。この問題は、暗記中心の入試制度と、効率を重視する学校教育の両方に起因すると論じている。

第2段落(直接引用+意見):
特に注目すべきは、筆者が「学ぶことの楽しさを知らない生徒を、いくら詰め込んでも真の学力は育たない」と述べている点である。この指摘は、学力と学習意欲は別物であり、両者を同時に育成する必要性を示唆している。

テクニック②:筆者の主張と自分の立場を明確に区別する

「筆者は〜と主張している」と「私は〜と考える」を明確に分けることで、剽窃を避けつつ、自分の意見を際立たせることができます。

筆者は、環境問題の解決には企業の生産システムの変革が不可欠だと主張している(筆者の意見)。この見解は妥当である。なぜなら、個人の努力だけでは削減できるCO2排出量は限られているからだ(自分の意見+理由)。しかし、企業の変革を促すには、消費者の選択行動も重要な役割を果たす(自分の意見)。

テクニック③:批判的に引用する

課題文に全面的に賛成するだけでなく、批判的に検討することで思考の深さを示せます。ただし、批判する際も、まず筆者の主張を正確に引用してから反論します。

筆者は「AI技術の発展は必然的に大量失業を引き起こす」と主張している。しかし、この見解には疑問がある。産業革命時も同様の懸念があったが、結果的には新たな産業と雇用が創出された。AI時代においても、技術進歩が新しい職種を生む可能性は高い。問題は技術そのものではなく、労働者が新しいスキルを習得できる教育体制が整っているかどうかである。

テクニック④:複数箇所から部分的に引用する

課題文の異なる部分から重要な点を抽出して組み合わせることで、筆者の主張の全体像を効率的に示せます

筆者は、現代の若者について、「物質的には豊かだが、人間関係が希薄化している」と指摘し、さらに「デジタルコミュニケーションが対面での会話能力を低下させている」と懸念を示している。これらの指摘から、筆者が若者の孤立化を問題視していることが読み取れる。

テクニック⑤:引用箇所を厳選する

課題文の全てを引用する必要はありません。自分の論に関連する部分だけを選択的に引用することで、焦点が明確になります。

❌ 悪い例(引用が多すぎる):
筆者は「環境問題は深刻である」と述べ、「個人の努力も大切だ」と言い、「しかしそれだけでは不十分である」と主張し、「企業も変わる必要がある」と論じ、「政府の役割も重要だ」と指摘している。

✅ 良い例(要点を絞る):
筆者の主張の核心は、環境問題の解決には「企業の生産システムそのものの変革が不可欠」という点にある。この指摘は、個人の努力だけでは限界があるという認識に基づいている。

引用における文字数のバランス

小論文全体に占める引用の割合は、20〜30%程度が適切です。引用が少なすぎると根拠が弱くなり、多すぎると自分の意見が希薄になります。800字の小論文なら、引用部分は160〜240字程度、残りの560〜640字で自分の意見を展開するイメージです。

まとめ:引用で論文の質を高める

小論文における引用は、単なる形式ではなく、論証を強化する戦略的な技術です。正しい引用のルールとマナーを守ることで、剽窃を避けつつ、説得力のある論文を書くことができます。

引用の5つの基本原則

  1. 明確に区別する – 引用部分と自分の意見を明確に区別し、剽窃を避ける
  2. 適切に選択する – 直接引用と間接引用を、目的に応じて使い分ける
  3. 正確に示す – 出典を本文中に簡潔に示し、信頼性を高める
  4. 効果的に配置する – 引用だけで終わらせず、必ず自分の解釈・評価を加える
  5. バランスを保つ – 引用は全体の20〜30%程度に抑え、自分の論が中心となるようにする

引用で避けるべき3つの失敗

  • 出典を示さない – 他者の意見を自分のもののように書く(剽窃)
  • 引用に頼りすぎる – 引用ばかりで自分の意見がない
  • 引用を放置する – 引用だけして、解釈や評価を加えない

引用は、適切に使えば論文の質を大きく向上させますが、誤った使い方をすると減点の原因となります。本記事で紹介したルールとテクニックを実践し、「書く→添削を受ける→改善する」というサイクルを通じて、引用のスキルを磨いていきましょう。正しい引用ができるようになれば、小論文全体の説得力が飛躍的に高まります。

スカイメソッド小論文対策の動画プレゼント!
無料LINE登録で動画を受け取る