「やりたいことが見つからない」高校生へ——それは才能の問題ではなく、順序の問題です

五十嵐校長コラム

「先生、私、やりたいことが何もないんです。だから志望校も決められなくて」

11月の終わり、面談室に入ってきた高校2年生の女子生徒は、椅子に座るなり下を向いたまま、そう言いました。声が少し震えていました。隣に座った母親が、申し訳なさそうな顔で私を見ました。「うちの子、本当に何も興味がなくて……先生、どうしたらいいでしょうか」と。

私はその瞬間、この親子が抱えてきたであろう時間の重さを感じました。おそらく何度も同じ会話を繰り返してきたのでしょう。「何になりたいの?」「わからない」「どこの大学に行きたいの?」「決められない」——そのたびに娘は自分を責め、母親は焦りを募らせ、二人の間に少しずつ溝ができていく。その光景が目に浮かびました。

この言葉を、私は毎年必ず聞きます。毎年、何十人もの高校生がこの言葉を口にしながら、スカイ予備校の相談窓口を叩きます。進路指導の先生に言われた。親に言われた。友達はもう決まっているのに自分だけ決まっていない。そのプレッシャーが積み重なって、ついに「自分はおかしいのではないか」という恐怖にまで育ってしまっている。

この言葉を聞くたびに、私の胸の奥で何かが燃え上がります。悔しさとも焦りともつかない、熱い感情です。

なぜなら、この言葉は完全に間違った前提の上に立っているからです。

「やりたいことが見つからない」のではありません。「やりたいことは最初からある」——ただ、見つけ方を誰も教えてくれなかっただけなのです。そして、その「見つけ方」を知らないまま受験に突入してしまうことが、最大の悲劇です。今日はその話を、正直にお伝えします。

なぜそうなるのか——本質的な原因

「やりたいことが見つからない」という状態は、その生徒の能力や個性の問題ではありません。これは構造的な問題です。日本の教育システムが生み出した、ある種の「副作用」と言っていい。

スカイ予備校では、毎年入塾時にアンケートを実施しています。その中に「志望学部・学科はすでに決まっていますか?」という質問があります。過去5年間のデータを集計したところ、高校2年生の段階で「はっきり決まっている」と答えた生徒は、全体のわずか18%でした。つまり約8割の生徒が、志望先を決めきれないまま受験準備を始めているのです。

にもかかわらず、学校の進路指導は「夢から逆算しなさい」という前提で設計されています。「将来なりたい職業を書きなさい」「10年後の自分を想像しなさい」——こうした問いかけは、すでに「やりたいこと」がある生徒には有効かもしれません。しかし、まだ見つかっていない8割の生徒にとっては、単なる「自分の欠落を確認する作業」になってしまいます。

なぜ「やりたいこと」が見つからないのか。私が27年以上の指導経験から導き出した答えは、「経験の絶対量が足りないから」です。人間は、経験したことのないものを「やりたい」とは思えません。医者になりたいと思う生徒は、家族が医者だったり、病院で感動的な体験をしたりと、必ず何らかの「接触」があります。その接触が少ない生徒は、単純に選択肢が見えていないだけです。

さらに深刻なのは、現代の高校生が「正解のある問い」に慣れすぎているという点です。テストには必ず正解があります。受験勉強も、正しい解法を覚えれば点が取れます。しかし「やりたいことを見つける」という問いには、最初から正解がありません。正解のない問いに向き合う訓練をほとんど受けていない高校生が、突然「あなたの夢は何ですか」と問われても、答えられないのは当然のことなのです。

加えて、SNSの影響も無視できません。インスタグラムやTikTokには、「夢を持って輝いている同世代」の姿が溢れています。それを見るたびに「自分だけが遅れている」という感覚が強化される。しかし実際には、あの「輝いて見える姿」も、その裏側に無数の迷いと失敗があります。見えているのは結果だけです。比較すること自体が、そもそも間違っているのです。

「やりたいこと」を先に見つけようとするから、見つからない

高校生が「やりたいことが見つからない」と悩む理由の多くは、実は探し方が逆になっているからです。

学校の進路指導では「将来の夢から逆算して大学を選びなさい」と教えます。保護者の方も「何になりたいの?」と問いかけます。まるで「やりたいこと」は、最初から完成品として自分の内側に眠っているかのように。

しかし、スカイ予備校で27年以上、累計1万人を超える受験生を見続けてきた私だからこそ断言できます。17歳・18歳の段階で「やりたいこと」が明確に定まっている高校生は、ほとんどいません。それが普通であり、むしろ健全です。

問題は「やりたいことがないこと」ではなく、「やりたいことがないと自分を責め続けること」です。この自責のループに入った瞬間、人は動けなくなります。自責は思考を止めます。思考が止まれば、当然、やりたいことも見つかりません。これが「やりたいことが見つからない」という状態の正体です。

落ちた生徒と受かった生徒——二人の対比

同じ高校3年生の春、似たような状況からスタートした二人の生徒がいました。どちらも「やりたいことが見つからない」と言っていました。しかし、一年後の結果は正反対でした。

一人目は、仮にA君としましょう。理系の生徒で、数学は得意でしたが、「なぜ大学に行くのかわからない」という状態でした。私との最初の面談で「やりたいことが見つかってから、本格的に勉強します」と言いました。私はその言葉に危機感を覚えましたが、A君の意志は固かった。彼はその後、「やりたいことを探すため」と言って様々な職業調べをしましたが、具体的な勉強時間は一向に増えませんでした。夏が終わり、秋になっても「まだ決まっていない」という状態が続きました。結局、11月に入ってから慌てて志望校を決めましたが、基礎が固まっていないまま直前期に突入し、第一志望はおろか、第二志望にも届きませんでした。

二人目は、仮にBさんとしましょう。文系の生徒で、英語が得意でしたが、同じく「将来が見えない」と言っていました。最初の面談で私は彼女にこう言いました。「やりたいことは後から見つかる。今は『気になること』を3つ書いてみて」と。彼女が書いたのは「海外のニュースが気になる」「格差問題を見ると腹が立つ」「英語で外国人と話したときが一番楽しかった」の3つでした。私はそこから「国際関係学」「開発経済学」「社会学」という学問の方向性を提示し、まずその方向で志望校を仮決定しました。「仮でいい。動きながら修正すればいい」と伝えました。Bさんは仮の目標でも動き始めました。勉強しながら関連する本を読み、オープンキャンパスで教授の話を聞くうちに、「国際協力の仕事に関わりたい」という具体的な像が浮かんできました。秋には志望校が固まり、モチベーションも安定しました。結果、第一志望の国際学部に現役合格しました。

この二人の差は、才能でも努力量でもありませんでした。「やりたいことが見つかってから動くか」「動きながらやりたいことを見つけるか」——この順序の違いだけです。受験において、順序を間違えることは致命的です。時間は誰にも平等に、容赦なく流れていきます。

ある高校2年生が教えてくれたこと

少し前のことです。ある高校2年生の生徒が、面談室で私にこう打ち明けてくれました。

「友達はみんな『医者になりたい』『教師になりたい』って言ってるのに、私だけ何も思い浮かばない。自分がダメな人間なんじゃないかって思う」

私は少し間を置いて、こう聞き返しました。

「じゃあ、これまでの人生で、時間を忘れて夢中になったことは何かあった?どんな小さなことでもいい」

彼女はしばらく考えて、「小学校のとき、図鑑を読むのが好きでした。特に生き物の仕組みが書いてある本」と答えました。

そこから話を掘り下げると、生物の授業だけは今でも楽しいこと、ニュースで環境問題を見ると他人事に思えないこと、動物の生態についてのドキュメンタリーは最後まで見てしまうことが次々と出てきました。

「やりたいことがない」と思っていた彼女の中に、すでに「やりたいこと」の種は育っていたのです。ただ、それを「やりたいこと」だと認識する言葉を持っていなかっただけでした。

彼女はその後、農学部の環境系学科を第一志望に定め、見事に現役合格を果たしました。

「やりたいこと」の正しい見つけ方——3つの問い

①「好き」ではなく「気になる」を探す

「好きなこと」を探そうとすると、ハードルが上がります。「好き」という感情は、すでにある程度関わった後に生まれるものだからです。まず探すべきは「なんとなく気になる」「目が止まる」「なぜか放っておけない」という弱いシグナルです。このシグナルを無視しないでください。それがすべての出発点です。ニュースを見ていて思わず手が止まった話題、本屋でなぜか手に取ってしまったコーナー、YouTubeで気づいたら30分見ていたジャンル——そういった「小さな引力」を丁寧に拾い集めることから始めてください。

②「嫌いなこと」から逆算する

やりたいことが見つからないとき、「嫌いなこと・許せないこと」を書き出すのは非常に有効です。「食品ロスが許せない」「勉強できない子が損をする社会が嫌だ」——この「怒り」や「違和感」の中に、あなたが本当に関わりたい課題が隠れています。やりたいことは、多くの場合「怒り」の裏側にあります。怒りは、あなたが深く関心を持っている証拠です。無関心な人間は怒りません。あなたの怒りは、才能の入り口です。

③「大学で何を学ぶか」より「どんな問いに答えたいか」を考える

「何を学ぶか」という問いは、選択肢が多すぎて迷子になります。それより「自分はどんな問いに向き合いたいか」を考えてみてください。「なぜ人は争うのか」「生き物はなぜ死ぬのか」「なぜ貧しい国と豊かな国が生まれるのか」——この「問い」が見つかれば、学ぶべき学問はおのずと絞られます。問いを持つことは、答えを持つことより価値があります。大学とは、答えを教わる場所ではなく、問いを深める場所だからです。

保護者の皆さまへ——その言葉が、子どもを止めています

ここで少し、お子さんの隣で一緒にこの記事を読んでくださっている保護者の方に、直接お話しさせてください。

保護者の方が無意識にやってしまいがちな「間違った行動」があります。最も多いのは、「何になりたいの?」「早く決めなさい」という言葉を繰り返すことです。この言葉は、親御さんにとっては心配からくる自然な言葉です。しかしお子さんの立場からすると、この言葉は「まだ決まっていないあなたはおかしい」というメッセージとして受け取られることがあります。その結果、子どもは「決められない自分」を隠すようになり、進路の話題を避けるようになります。これが最悪の状態です。

もう一つ多いのは、「安定した職業に就きなさい」という誘導です。公務員、教師、医療職——確かに安定はしています。しかし「安定しているから」という理由だけで選んだ進路は、大学入学後に大きな壁にぶつかります。学ぶ意味が見えない、授業が苦痛、就職活動でも熱意が持てない——こうした状態に陥る学生を、私はたくさん見てきました。

では、保護者の方に何をしてほしいのか。答えはシンプルです。「最近、何を見ていたら時間を忘れた?」と聞いてください。「何になりたいか」ではなく、「何をしているときが楽しかったか」を聞いてください。そして、どんな答えが返ってきても、否定しないでください。「それは仕事にならない」「それで食べていけるの?」という言葉は、今は必要ありません。まず種を見つけること。育てることは、その後でいい。お子さんの「気になる」を一緒に喜べる親御さんの存在が、進路選択において最大の追い風になります。

スカイ予備校の具体的な指導法——「問いを育てる」3つのアプローチ

スカイ予備校では、「やりたいことが見つからない」生徒に対して、他の予備校とは異なるアプローチを取っています。その核心を、ここで具体的にお伝えします。

【指導法1】「ライフライン面談」——人生の山と谷を地図にする

入塾後の最初の面談で、私たちが行うのは「ライフライン面談」です。生徒に、小学校から現在までの「楽しかった出来事」「つらかった出来事」を時系列で書き出してもらいます。そのグラフを見ながら、「なぜそのとき楽しかったのか」「何があなたを動かしたのか」を一緒に深掘りします。この作業を通じて、生徒自身が気づいていなかった「自分が本質的に大切にしていること」が浮かび上がってきます。ある生徒は、この面談を通じて「自分は常に、誰かのために何かをしているときに一番充実している」と気づき、社会福祉学科への志望が固まりました。

【指導法2】「逆引き学問マップ」——怒りと問いから学部を探す

「やりたいことがない」生徒に対して、私たちは「あなたが許せないことは何ですか」という問いから始めます。出てきた答えを「社会課題」として整理し、その課題に取り組む学問分野を逆引きでマッピングします。「環境破壊が許せない」→理学部・農学部・工学部の環境系。「教育格差が許せない」→教育学部・社会学部・経済学部。「医療が届かない人がいるのが許せない」→医学部・看護学部・公衆衛生学。この「逆引き」の発想が、多くの生徒の霧を晴らします。

【指導法3】「仮志望校制度」——決めることより動くことを優先する

スカイ予備校では、志望校が決まっていない生徒に対して「仮志望校」を設定することを推奨しています。「仮でいい。変えていい。でも今日から、その方向で動き始めよう」というスタンスです。仮であっても、目標が定まれば勉強の優先順位が決まります。優先順位が決まれば、行動が生まれます。行動が生まれれば、その過程で本物の「やりたいこと」が見えてきます。「完璧な地図を待ってから出発する」のではなく、「大まかな方角だけ決めて、歩きながら地図を描く」——これが、受験という時間制限のある戦いで最も有効な戦略です。

「やりたいこと」がなくても、受験は戦える

私、五十嵐は、ここで一つ重要なことを伝えなければなりません。

「やりたいことが見つかってから志望校を決める」という順序は、多くの場合、受験という現実に合いません。やりたいことを探しながら、同時に学力も上げていく。この二軸を並走させることが、現実的な戦略です。

「やりたいことが見つからないと、勉強に身が入らない」という声もよく聞きます。しかし逆説的なことに、勉強して視野が広がったことで、やりたいことが見つかったという生徒の方が、私の経験では圧倒的に多い。まず動くことで、見えてくるものがあります。現代文の問題文で初めて「哲学」に触れて哲学科を志望した生徒がいます。英語の長文で「行動経済学」を知って経済学部を目指した生徒がいます。勉強そのものが、「やりたいこと」を見つける最も効率的な方法の一つなのです。

大学受験は才能の戦いではありません。戦略と順序の戦いです。「やりたいことが見つからない」という状態は、スタートラインに立てていないのではなく、正しい地図を持っていないだけです。地図は、一緒に作れます。

あなたの「問い」を、一緒に見つけましょう

冒頭でお話しした、面談室で下を向いていた高校2年生の女子生徒。彼女は面談の終わりに、少しだけ顔を上げて言いました。「やりたいことがないのは、私がおかしいんじゃないんですね」と。私は「当たり前です。むしろ今日、正しい場所に来た」と答えました。

彼女はその後、ライフライン面談を経て「人の心の動きに興味がある」という軸を見つけ、心理学部を仮志望校として設定しました。勉強を進める中で「臨床心理士になって、不登校の子どもたちを支えたい」という具体的な像が生まれました。受験本番では第一志望の心理学部に合格し、今は大学で生き生きと学んでいます。

あなたの中に、答えはすでにあります。ただ、一緒に掘り下げる人間が必要なだけです。「やりたいことが見つからない」は、弱さではありません。それは、まだ誰も正しい問いを投げかけてくれなかっただけです。スカイ予備校では、志望校・学部選びの段階から、生徒一人ひとりの「問い」を掘り起こす面談を行っています。「やりたいことが見つからない」という高校生を、私は何百人も志望校合格に導いてきました。あなたの「やりたいこと」の種を、一緒に見つけに行きましょう。

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