「やる気が出ない」は才能の問題ではない——27年で見えた、やる気のメカニズムと失敗するパターン

「やる気が出ない」は才能の問題ではない——27年で見えた、やる気のメカニズムと失敗するパターン 五十嵐校長コラム

「先生、私、もうダメかもしれません。勉強しようとするんですけど、椅子に座っても何もできなくて……」

ある秋の夜、一人の女子生徒が面談室のドアをノックした。高校3年生のAさん。志望は地元の国立大学の医学部。成績は悪くない。むしろ、入塾テストでは上位だった。それなのに、9月に入ってから急に自習室に来なくなり、提出物も遅れ始めていた。

私は彼女の目を見て、すぐにわかった。これは「サボり」ではない。本当に動けなくなっているのだ、と。

「やる気がない子」は存在しない

27年間、累計1万人を超える受験生を見てきた私が断言します。「やる気がない子」というのは存在しません。「やる気が出ない状態に陥っている子」がいるだけです。

この違いは、見た目には同じに映る。でも、対処法はまったく違う。「やる気がない子」なら叱咤激励すればいい。でも「やる気が出ない状態にある子」を叱咤激励しても、エンジンのかかっていない車をアクセル全開で踏むようなものだ。壊れるだけです。

私がこの仕事を始めて最初の数年間、正直に言えば、私もその区別ができていなかった。「もっと本気でやれ」「時間を無駄にするな」と言い続けて、何人かの生徒を追い詰めてしまったことがある。それが今でも悔やまれる。だからこそ、今日この話を書かずにはいられない。

やる気が出ない「本当の原因」は3つに集約される

27年間で見てきた現場だからこそ断言できますが、受験生がやる気を失うパターンは、ほぼ例外なく次の3つのどれかに当てはまります。

①「何のためにやるのか」が見えなくなっている

Aさんの話に戻ろう。面談で話を聞いていくと、彼女は「医学部に行きたい」という気持ちが、いつの間にか「親に言われたから医学部を目指している」にすり替わっていたことに気づいていなかった。夏が終わり、模試の結果が思うように出ない中で、「そもそも私は何のために戦っているんだろう」という問いが頭の中でぐるぐるし始めた。その問いに答えが出ないまま、机に向かっても手が動かない。当然の話だ。

私は彼女に聞いた。「医者になって、誰を助けたいの?」

しばらく沈黙があった。そして彼女は、小学生のときに入院した経験と、そのとき担当してくれた女性の先生の話を始めた。目に涙が浮かんでいた。そこに、本物の動機があった。

やる気とは、外から注入できるものではない。内側にすでにある火種を、もう一度点火する作業だ。

②「成功体験の枯渇」が起きている

もう一人、Bくんの話をしよう。彼は理系志望の男子生徒で、数学が得意だった。ところが、高3の夏以降、「数学しかやってこなかった」ツケが英語と国語に一気に出た。模試のたびに総合点が下がる。得意の数学は解けても、全体の点数は上がらない。

私が彼の答案を見たとき、真っ先に感じたのは「この子は最近、何かできた実感を得ているだろうか」という疑問だった。話を聞くと、案の定、ここ2ヶ月で「よくできた」と思えた経験がほぼゼロだった。

人間の脳は、成功体験によってドーパミンが分泌され、それが次の行動への燃料になる。これは精神論ではなく、脳科学的な事実だ。やる気が出ない多くの受験生は、この燃料が切れている。勉強しても手応えがない→やる気が出ない→さらに勉強しない→ますます手応えがない、という悪循環に入っている。

Bくんには即座に指示した。「今日から2週間、英語と国語は一切やるな。数学だけやれ。確実に解ける問題を毎日10問解け」と。保護者の方には驚かれたが、2週間後、彼は久しぶりに自信を持った顔で自習室に来た。そこから英語の立て直しを始めた。

③「疲弊」を「怠惰」と本人が誤解している

これが一番、見落とされやすい。受験生本人が「自分はサボっているだけだ、意志が弱いだけだ」と思い込んでいるケースだ。しかし実際には、睡眠不足・栄養不足・孤独感・プレッシャーの蓄積によって、脳と体が本当に限界に来ていることがある。

そういう状態で「もっと頑張れ」と自分を追い込むのは、骨折した足で走り続けるようなものだ。骨折は見えないから、本人も周囲も気づかない。でも確実に悪化している。

私は長年の経験から、生徒の顔色・言葉の選び方・目の焦点・声のトーンを見れば、「疲弊しているかどうか」がある程度わかるようになった。そして疲弊しているときに必要なのは、激励ではなく、まず「許可」だ。「今日は休んでいい」という言葉が、翌日の10時間の勉強より価値を持つことがある。

最も危険な「やる気の罠」

ここで、27年間で見てきた最も多い「失敗パターン」を警告しておきたい。

それは、「やる気が出るまで待つ」という戦略だ。

「やる気が出たら勉強しよう」と思っている受験生は、ほぼ確実に間に合わない。これは断言する。

なぜか。やる気は「行動の前に来るもの」ではなく、「行動の後についてくるもの」だからだ。脳科学の世界では「行動が感情を作る」という原則がある。つまり、やる気が出るから行動するのではなく、行動するからやる気が出る。この順番を逆に信じている受験生が、毎年何十人も失敗していく現場を私は見てきた。

では、やる気がない状態でどう動き始めるか。答えは「量を極限まで下げること」だ。1時間勉強できないなら、5分でいい。5分も無理なら、教科書を机の上に置くだけでいい。脳に「勉強を始めた」という信号を送ることが最初の一手だ。これは精神論ではなく、行動科学に基づいた現実的なアプローチだ。

保護者の方へ——「見守る」と「放置する」は違う

Aさんの保護者の方は、娘がやる気を失っていることに気づいていた。でも「口を出すと反発するから」と、ずっと黙って見ていた。その気持ちはよくわかる。でも、「見守る」と「放置する」は違う。

見守るとは、相手の状態を観察しながら、必要なタイミングで手を差し伸べることだ。放置とは、ただ何もしないことだ。

子どもが「大丈夫」と言っていても、大丈夫ではないことがある。受験生の「大丈夫」は、多くの場合「大丈夫にしなければならない」という意味だ。そのサインを読み取れるかどうかが、保護者として最も重要な役割だと私は考える。

Aさんはその後、志望を変えることなく医学部に合格した。合格後に彼女が言った言葉が今も忘れられない。「あの面談で、先生に動機を聞いてもらえてよかった。あのまま一人だったら、受験をやめていたと思います」。私はそのとき、この仕事を続けてきてよかったと心の底から感じた。

まとめ——やる気は「待つもの」ではなく「作るもの」

やる気が出ないのは、あなたの才能の問題でも、意志の弱さの問題でもない。状態の問題だ。状態は変えられる。変え方を知っているかどうかの差だ。

一人で抱え込まないでほしい。受験は情報戦でも暗記量の勝負でもなく、最終的には「どれだけ正しいサポートを受けられたか」の勝負でもある。

スカイ予備校では、成績だけでなく、今日お話ししたような「やる気のメカニズム」を踏まえた個別面談を定期的に行っています。「うちの子、最近なんか元気がない」「自分でもなぜ動けないかわからない」という方は、一度気軽に相談に来てください。答えは、意外と近いところにあります。

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