受験直前の10月に崩れる生徒の共通点——27年間で見た「秋の失速」の正体

受験直前の10月に崩れる生徒の共通点——27年間で見た「秋の失速」の正体 五十嵐校長コラム

「校長先生、なんか最近、勉強が手につかなくて……」

10月の初旬、自習室の隅でぼんやりと参考書を眺めていたKが、私にそう打ち明けたのは夜の9時過ぎだった。夏期講習では目の色が変わっていたあの子が、たった1ヶ月でこんなに別人になるのか——私はそのとき、胸の奥に重たいものを感じた。

毎年この季節になると、私は身構える。27年間、受験生と向き合ってきた現場だからこそ断言できます。10月は、最も「崩れやすい」月です。志望校への距離が見えてきて、模試の結果が現実として突きつけられて、それでも入試本番までまだ数ヶ月ある——この宙ぶらりんな時期に、秋の失速は静かに、しかし確実に始まります。

「夏に頑張った子」ほど10月に崩れる逆説

意外に思うかもしれませんが、10月に失速する生徒は、勉強をさぼっていた子ではありません。むしろ夏に猛烈に頑張った子です。

夏休み中、毎日10時間以上勉強した。模試の判定も少し上がった。9月の最初は「やってやった」という手応えがある。ところが9月末から10月にかけて、その手応えが「焦り」に変わっていく。過去問を解いてみたら思ったより点が取れない。模試でE判定が出た。周りの友達が急に伸びてきたように見える。

そこで多くの生徒が陥るのが、「頑張り方のリセット」です。夏にやってきたことを捨てて、また別の参考書に手を出す。新しい勉強法を探し始める。自分の弱点ばかりが気になって、得意科目の演習をやめてしまう。私はこれを「秋の迷子」と呼んでいます。

夏の努力が無駄だったわけではありません。ただ、結果として現れるまでのタイムラグを信じ切れなかっただけです。

Mの話——「模試の判定」に人生を決めさせた夏

数年前、国公立大学の医学部を目指していたMという生徒がいた。夏前から毎日自習室に来て、誰よりも早く来て誰よりも遅く帰るような子だった。8月末の模試でC判定が出て、「いける気がしてきました」と目を輝かせていた。

ところが10月の模試でD判定が出た瞬間、彼女は別人になった。

授業中に上の空になる。質問に来なくなる。「他の予備校の冬期講習も受けようと思って」と言い出す。私が話しかけると「大丈夫です」とだけ答えて、目を合わせなくなった。

私は直接呼び出して話した。「Mさん、今何が怖い?」と聞いたとき、彼女は初めて泣いた。「このまま頑張っても、受からなかったらどうしようって……夏あんなに頑張ったのに判定が下がったから、もう何をしたらいいかわからなくて」

私はそのとき、はっきりこう伝えた。「今のあなたは勉強が怖いんじゃない。努力が報われないことが怖いんだ。それは当然の感情だ。でも、今の判定はあなたの限界じゃない。夏に積み上げたものはちゃんとある。ただ、それを信じる勇気が今必要なんだ」と。

Mはその後、勉強の軸を夏のやり方に戻した。余計な情報を遮断して、自分のペースを取り戻した。結果として、翌年ではなく現役でその大学に合格した。

10月に崩れる生徒の「3つの共通点」

27年間で1万人を超える受験生を見てきた中で、秋に失速する生徒には明確な共通点があります。ひとつひとつ、正直に書きます。

①「判定」を目標にしている

模試の判定はあくまで現時点の統計的な位置づけに過ぎません。しかし判定を「目標」にしてしまっている生徒は、判定が下がった瞬間に目標を失います。本来の目標は「○○大学に合格すること」であるはずなのに、いつの間にか「A判定を取ること」にすり替わってしまっている。だから判定が下がると、方向感覚を失って迷走する。

②「やることリスト」が増え続けている

10月になると、多くの受験生が「やり残し」の不安に駆られます。英単語も完璧じゃない、古文文法も怪しい、数学の積分も不安、世界史の近現代も……と、不安の棚卸しをしてしまう。その結果、やることが増えすぎて、何も深くできないまま時間だけが過ぎていく。私は毎年10月に、生徒に「今すぐやめることを決めなさい」と言います。増やすより、削る勇気のほうが今は大事です。

③「合格した自分」を想像できなくなっている

これが一番深刻です。夏の間は「絶対受かる」と思えていたのに、秋になると「もし落ちたら」という思考が頭を支配し始める。脳が失敗のシナリオを自動的に描くようになると、勉強中も「どうせ無駄かも」という声が聞こえてくる。集中力が落ちる。机に向かっても身が入らない。これは意志の弱さではなく、心理的なメカニズムです。でも放置してはいけない。

保護者が気づかない「家庭内の空気」の影響

もうひとつ、現場で強く感じることがあります。10月に崩れる生徒の家庭には、ある共通した「空気」があります。

Tという生徒の母親が相談に来たとき、開口一番こう言いました。「先生、うちの子、最近ため息ばかりついていて。私も心配で、ついつい『大丈夫なの?』って聞いてしまって……」

私は優しくこう伝えました。「お母さん、『大丈夫なの?』という言葉は、子どもには『大丈夫じゃないかもしれない』というメッセージとして届くことがあります。心配する気持ちは当然ですが、今の時期に一番必要なのは、家庭が『安全基地』であることです」

受験生は家でも気を張っています。親の不安が伝わると、家が休める場所ではなくなる。すると心が休まらず、勉強の質も落ちる。保護者の方に知っておいてほしいのは、10月の子どもへの声かけは「頑張れ」より「ゆっくり食べな」のほうが、心には深く届くということです。

「秋の失速」を防ぐために、今日からできること

失速を防ぐ方法は、実はシンプルです。難しい戦略は要りません。

まず、夏にやってきた勉強の軸を確認してください。何の参考書を、どのペースで、どのように使っていたか。それが今も続いているなら、続けてください。続いていないなら、今すぐ戻してください。新しいものに手を出したくなる衝動は、「不安のサイン」です。新しい参考書は不安を一時的に和らげますが、実力は上がりません。

次に、1日の終わりに「今日できたこと」を1行だけ書いてください。「できなかったこと」ではなく「できたこと」です。これは自己満足ではありません。脳が積み上げを認識することで、翌日の集中力が変わります。私が長年すすめてきた習慣の中で、最も効果が高く、最も続けやすいものがこれです。

そして、信頼できる大人に「今の状態」を正直に話してください。一人で抱えると、不安は倍になります。話すだけで、半分になります。

最後に——崩れた生徒を、私は見捨てたことがない

27年間で見てきた現場だからこそ断言できます。10月に崩れても、立て直した生徒は必ずいます。むしろ、一度崩れて、それでも戻ってきた生徒のほうが、入試本番で強い。それは、自分の弱さと向き合った経験が、本番の緊張の中で「自分はあの時期を乗り越えた」という静かな自信になるからです。

秋の失速は、終わりではありません。自分の弱点を知るための、最後の機会です。

もし今、あなたのお子さんが「なんか最近おかしい」と感じているなら、あるいはあなた自身が「手が動かない」と感じているなら、一人で抱え込まないでほしい。スカイ予備校では、この時期に専門の面談を設けています。成績の話だけでなく、今の状態を正直に話せる場所として、ぜひ使ってください。

【五十嵐より追記】
(この記事を読んで思い出したこと、追加で伝えたいことをここに記入してください)
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