受験に合格した後、あなたのお子さんは「お金」と正しく向き合えますか?
スカイ予備校で30年間、多くの生徒たちを見守ってきた私(五十嵐)ですが、最近特に気になることがあります。それは、難関大学に合格した優秀な生徒たちが、社会に出てから「お金」で失敗するケースが増えていることです。
受験勉強では偏差値70を超えていた卒業生が、投資詐欺に引っかかったり、クレジットカードで借金を重ねたりする話を聞くたび、私たち教育者は何か大切なことを教え忘れていたのではないかと考えさせられます。
なぜ日本は「お金の教育」をしてこなかったのか
日本の学校教育が長年「お金の話」を避けてきたのには、実は深い理由があります。戦後復興期から高度経済成長期にかけて、「勤勉に働けば必ず報われる」という価値観が社会全体を支えていました。終身雇用制度のもとで、お金について深く考えなくても安定した人生を送れる時代が続いていたのです。
しかし、バブル崩壊以降、その前提は大きく変わりました。年功序列の崩壊、非正規雇用の増加、年金制度への不安。現代の若者たちは、私たちの世代とは全く違う経済環境の中で生きていく必要があります。
私自身も、若い頃は「お金の話は野暮だ」と教えられてきました。まるで、お金のことを考えるのは品がないことであるかのように。しかし、それはもはや通用しない時代です。むしろ、お金について無知であることこそが、人生における大きなリスクとなることを、私たちは真摯に受け止めるべきでしょう。
現代社会では、消費者の選択肢は無限に広がり、金融商品も複雑化しています。インターネットの普及により、情報過多の時代となり、正しい情報と誤った情報を見極める力が不可欠です。こうした変化に対応するためには、私たち大人がまず意識を変え、次の世代に適切な「お金の知識」と「判断力」を伝える責任があると考えています。
2026年から始まる「金融経済教育」の全体像
こうした社会情勢を受けて、文部科学省は2026年から高等学校で「金融経済教育」を本格的に必修化することを発表しました。家計管理、資産形成、金融商品の仕組み、リスクとリターンの考え方など、実生活で必要となる金融リテラシーを体系的に学ぶカリキュラムが組まれています。
具体的には、家庭科の授業で、「生涯を見通した経済計画」や「資産形成の基礎」といった内容が盛り込まれます。例えば、NISAやiDeCoといった国の制度についても学ぶ機会が増えるでしょう。これは、若いうちから資産形成の重要性を理解し、計画的な貯蓄や投資に取り組むきっかけとなることが期待されます。
ただし、学校教育だけで十分とは言えません。なぜなら、お金に関する判断は、知識だけでなく価値観や人生観に深く関わるからです。授業で学ぶのはあくまで基礎知識であり、それをどのように自分の人生に活かすかは、個人の考え方や経験に大きく左右されます。だからこそ、家庭での会話や保護者の皆さんの実体験に基づいた教育が、何よりも重要となるのです。
なぜ学校教育だけでは不十分なのか
- 実践的な経験の不足: 学校での学びは座学が中心となりがちです。実際に自分で家計簿をつけたり、少額でも投資を経験したりする機会は限られています。
- 個別のライフプランとの関連: 人生設計は一人ひとり異なります。家族構成、キャリアプラン、住居、健康状態など、様々な要素が絡み合います。画一的なカリキュラムでは、個別の状況に応じた具体的なアドバイスは困難です。
- 価値観の形成: お金に対する価値観は、幼少期の家庭環境や親の姿勢から大きな影響を受けます。「お金は汚いもの」「お金の話はタブー」といったネガティブな刷り込みがあると、知識だけでは健全な金銭感覚を養うのは難しいでしょう。
- 金融商品の複雑化と進化: 金融商品は日々進化し、多様化しています。学校で学ぶ内容は基礎的なものに限られ、最新の金融情報や詐欺の手口など、変化の速い情報に対応しきれない可能性があります。
これらの理由から、学校教育の枠を超えた、家庭での継続的な教育が不可欠なのです。スカイ予備校では、知識だけでなく、自ら考え、判断する力を養うことを重視していますが、これは金融教育においても同様であると考えています。
大学生が陥りやすい「お金の罠」
大学入学と同時に、多くの学生が初めて「経済的自立」を経験します。しかし、そこには様々な落とし穴が待っています。
- クレジットカードの安易な利用: 「今すぐ手に入る」という便利さから、支払能力を超えて使い過ぎてしまうケースが多発します。特にリボ払いなどは、金利負担が膨大になり、雪だるま式に借金が膨らむ原因となりがちです。「リボ払いは借金の一種」という認識をしっかり持つことが大切です。
- 高額なマルチ商法への勧誘: 「友人だから」「先輩だから」という信頼関係を逆手にとり、高額な商品やサービスを購入させ、さらに友人を勧誘させることで利益を得る悪質な商法です。人間関係を破壊するだけでなく、多額の借金を背負うリスクもあります。
- 「簡単に儲かる」をうたう投資詐欺: SNSやオンライン広告を通じて、「一日数分で月収〇〇万円」「元本保証で高利回り」といった甘い誘い文句で学生をターゲットにする詐欺が増えています。特に暗号資産(仮想通貨)を悪用した詐欺事例が目立ちます。
- 奨学金の返済計画の甘さ: 奨学金は「借金」です。卒業後の返済義務が伴いますが、返済シミュレーションを真剣に行わず、安易に借り過ぎてしまう学生が少なくありません。就職後の収入が予想よりも低かった場合、生活を圧迫する大きな要因となります。
- ギャンブル依存症: パチンコ、スロット、オンラインカジノなど、気軽に参加できるギャンブルが増え、大学生が依存症に陥るケースも報告されています。少額から始めたつもりが、次第にエスカレートし、学業や人間関係に支障をきたすほどにのめり込んでしまうことがあります。
私が特に心配するのは、SNSを通じて広がる「お金儲けの情報」です。18歳という多感な時期に、根拠のない投資話に惑わされる学生たちを何人も見てきました。彼らは皆、真面目で、将来のために何かをしたいという純粋な気持ちを持っていたにもかかわらず、誤った情報に踊らされてしまったのです。
ある卒業生は、SNSで知り合った「投資のプロ」を名乗る人物に誘導され、高額な情報商材を購入させられた上に、借金をしてまで暗号資産に投資。結局、その人物は連絡が取れなくなり、彼には多額の負債だけが残りました。彼はスカイ予備校時代、常に成績トップクラスで、目標達成のために努力を惜しまない生徒でした。それだけに、このような結果になったことが、私には非常にショックでした。
これらの「罠」から身を守るためには、「怪しい話には乗らない」「すぐに結論を出さない」「自分一人で判断しない」という鉄則を、強く心に刻む必要があります。
保護者が伝えるべき「生きたお金の話」5つ
では、保護者の皆さんは子どもたちに何を伝えればよいのでしょうか。私は以下の5つのポイントをお勧めしています。
①家計の現実を正直に話す(収入と支出の実際)
「うちはお金がないから」という抽象的な言葉ではなく、具体的に「今月の食費は〇〇円」「教育費は年間〇〇円かかっている」「お父さん(お母さん)のお給料は〇〇円で、そこから税金がこれだけ引かれている」といった話を、隠さずに伝えてみてください。子どもに家庭の財政状況を理解させることで、お金に対する現実的な感覚を養うことができます。
たとえば、電気を消し忘れたときに、「電気代は月にこれくらいかかっているんだよ。これだけの電気代を稼ぐのに、お父さん(お母さん)は何時間働いていると思う?」と問いかけるのも良いでしょう。これにより、漠然とした「節約」ではなく、具体的な数字と労働の対価としてお金が存在するという認識を深められます。
②お金を稼ぐことの大変さを伝える(労働の価値)
「お金は降って湧いてくるものではない」という当たり前の事実を、実体験を通して伝えてください。保護者の仕事内容や、その仕事が社会にどのような価値を提供しているのか、そしてその対価として収入を得ていることを具体的に話しましょう。
可能であれば、子どもにアルバイトや短期の労働体験をさせてみるのも非常に有効です。高校生のうちにコンビニエンスストアでのアルバイトや、地域のイベント手伝いなどを経験することで、時間と労力がお金に変換されるプロセスを肌で感じることができます。時給という概念を通して、自分の時間がいかに価値あるものか、そしてその時間を投じて得られるお金の大切さを実感するでしょう。私が教え子に「初任給で何がしたい?」と尋ねたところ、「両親にプレゼントを贈りたい」と答えた子がいて、その言葉に深い感銘を受けました。これはまさに、労働を通じてお金の価値と感謝の気持ちを理解した証拠だと感じました。
③失敗体験も包み隠さず共有する(リスクの現実)
保護者の皆さんも、過去には「あの時、あんな無駄遣いをしなければ」「あの投資話に乗らなければよかった」といった後悔や失敗があるはずです。そのような経験を、子どもにオープンに話してみてください。
私自身も、若い頃にクレジットカードを使い過ぎて、支払いに苦労した経験があります。その時の焦りや反省を、包み隠さずに息子に話しました。これにより、息子はクレジットカードの便利さと同時に、その危険性を理解し、慎重に利用するようになりました。人は他人の成功談よりも、失敗談から学ぶことの方が多いものです。特に、身近な大人の失敗談は、子どもにとって生きた教訓となります。
④お金では買えないものの大切さ(人間関係、健康、時間)
お金は生活を豊かにする手段ですが、人生のすべてではありません。家族との絆、友人との友情、健康な体、充実した時間、そして知識や経験といった、お金では買えない価値があることを繰り返し伝えてください。
例えば、「あの旅行はとても楽しかったね。お金もかかったけれど、家族みんなで過ごした時間が何よりも宝物だよ」といった会話も良いでしょう。また、「健康は最高の資産だ」という言葉も、お金と健康の関係を端的に表しています。お金を稼ぐために無理をして健康を損なってしまっては、元も子もありません。バランスの取れた生き方こそが、真の豊かさにつながることを教えるべきです。
⑤社会貢献とお金の関係(仕事の意味、社会的責任)
お金を稼ぐことは、単に自分の生活を豊かにするだけでなく、社会に貢献することでもあります。自分が提供するサービスや商品が、どのように人々の役に立っているのか、社会全体の中でどのような役割を果たしているのかを話しましょう。
また、税金がどのように社会のインフラや福祉に使われているのか、寄付やボランティア活動が社会に与える影響など、お金の「循環」と「社会的責任」についても考えてみてください。お金は単なる数字ではなく、人々の活動や社会の仕組みを支える重要なツールであるという視点を持たせることで、子どもはより広い視野で「お金」を捉えられるようになります。
机上の知識ではなく、生きた経験に基づく「お金の教育」こそが、子どもたちの人生を豊かにする財産となるのです。これらの話を通じて、子どもたちは単にお金の知識を得るだけでなく、健全な金銭感覚と、人生を豊かにする価値観を育むことができるでしょう。
お金と幸福―本当に大切なことは何か
お金は人生の目的ではなく、より良い人生を送るための手段です。30年間、様々な生徒たちを見てきて確信していることは、お金に振り回される人生ほど不幸なものはないということです。
一方で、お金について無知でいることも、同じように不幸を招きます。大切なのお金と健全な距離感を保ちながら、自分らしい人生を歩むための道具として上手に使いこなすことなのです。それは、まるで車を運転するようなものです。車の性能を知り、交通ルールを守り、安全運転を心がければ、目的地まで快適に移動できます。しかし、知識も技術もなく無謀な運転をすれば、事故を起こしてしまうかもしれません。お金も全く同じです。
真の幸福とは、決して高額な資産を築くことだけではありません。自分の価値観に基づいた目標を持ち、その達成に向けて努力し、人とのつながりを大切にし、心身ともに健康でいること。これらすべての要素が合わさって初めて、私たちは「豊かな人生」と呼べるのではないでしょうか。
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